188 / 570

第188話

「白石がいないとか、バイトしててもめっちゃ暇じゃん。俺、絶対白石はバイト入れてくると思ってたのになぁー」 「ゴールデンウィークは、予定がいっぱいあんの。それじゃなくても、今日だって……あー、もう、ヤらせろ」 つい零れた本音とともに、俺は煙草の煙を吐き出した。やり場のない感情を、俺は隣にいる康介の肩を一発殴って発散するけれど。 「痛えッ!!なんだよっ?!てか白石ぃ、俺とヤりてぇの?」 ニヤニヤと笑いながら、康介は目をパチクリさせて俺を見つめてくるのがウザい。 「ちげぇーよ、誰がお前なんか抱くか」 「ですよねぇ?あ、タバコ一本ちょーだい。ドリンク、勝手に買った代わりな」 普段喫煙しない康介だが、コイツはたまに俺からこうして煙草をパクっていく。今日は俺が康介の財布をパクったから、仕方なく一本くれてやろうと思った。 手に持っていた煙草を唇で挟み、もう一本箱から取り出して。俺はソレを康介の口に突っ込むと、カシャンと音を立てたジッポでゆっくり火を点けてやる。 「……ん、吸えよ」 康介が息を吸うと、ジュっと音がして煙草から煙が上がる。どうせ蒸かすことしかしないこの男は、最初の一口だけを楽しむつもりなんだろう。 「はぁ……サンキュー、時々吸いたくなんだよね。白石が吸ってるの見るとさ、すげぇカッコよく見えるから」 「カッコ良さ求めて、吸ってるワケじゃねぇーんだけど。今の俺たちなんて、傍から見たらただガラの悪い野郎だろ」 「まぁ、確かに……ってかさ、お前マジでその可愛い仔猫ちゃんとやらと、ヤってねぇの?」 「だから、ヤってねぇーって言ってんだろーが。そろそろ殺すぞ、バカ」 光と優にも同じことも言われてる俺は、康介に強めに当たるけれど。 「バカバカ言うなよっ!え?じゃあ、その仔猫以外とは?」 バカ呼びに慣れ親しんだ康介は、サラッと話題を俺に移すから。俺はゆったりと煙草の煙を吸い込むと、康介の意見を完全否定する。 「ヤるワケねぇーだろ。他ので満足できてたら、お前なんかと一緒にいねぇーよ。元々、俺から誘うことなんかねぇーしな。寄ってきた女、適当に抱いておしまい」 「最低ッ、ヤりすてポイじゃん」 「向こうも同じ考えだったら、それで充分だろ。それに俺、基本淡白だし」 「でも今は、それで充分じゃないから俺といんだろ?俺、その辺の女よりかは、白石に愛されてるってコトじゃん。やったねぇ」 煙草の煙を吐きながら、ワケのわからないことを言って笑う康介。 ……コイツの頭、大丈夫かよ。 そう思いつつ俺は最後の一口を吸い終わると、携帯灰皿に吸い殻を突っ込んでそのまま康介に手渡した。 「なんか今日の白石ってさぁ、いつにも増してエロい感じがすんだよね」 「自分じゃわかんねぇーよ、そんなもん」 今日の朝、星にも似たようなことを言われたが。自分じゃそんなことは気づけないし、気にもしていなかった。 「無自覚かよ、欲求不満の白石は恐ろしいな。今日のお前の雰囲気ヤバい、マジでエロいから」 ギャーギャーうるさい康介と、再びボールを蹴りあったあと、程良く疲れ切った俺は家に帰り爆睡した。

ともだちにシェアしよう!