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第192話
【星side】
白石さんに触れたくて、我慢ができなかったオレは、白石さんの家に着いてすぐに抱きついてしまった。
荷物の整理をして、兄ちゃんから渡された預かり物を白石さんに手渡して。
頭を撫でてほしいと、オレに強請る白石さんが可愛くて。膝枕でよしよしと頭を撫でて……それから、オレは自分から白石さんにキスをして。
そのあとは。
白石さんの宣言通り、オレは白石さんに可愛がってもらったんだけど。
オレは求められることの嬉しさと、与えることのできない不安で心が迷子になりそうなんだ。
昨日の夜、つまりはオレが白石さんに可愛がってもらったあと。白石さんは苦しそうな表情をして、オレから視線を逸らしてしまった。
果ててすぐの状態を直視されるのも恥ずかしいから、最初は気にしていなかったけれど。頭を撫ででもらったり、抱きしめてもらったり……今までの白石さんなら、必ずオレに触れてくれたのに。
昨日の白石さんは、オレの身体を綺麗に拭いてくれただけで。そのあとは、すぐに煙草を咥えてしまった。
それだけじゃない。
白石さんは、オレに言葉で愛を伝えてくれたけど……でも、だけど、昨日の夜は一緒のベッドで眠ってはくれなかったんだ。
オレが白石さんの抱き枕になることはなくて、オレはゆとりのあるベッドの上でステラを抱いて独りで眠ったから。
オレ、白石さんから避けられいるのかなってて……そう思うと悲しくて、とても寂しい気持ちになって。
上手く説明ができない感情を抱えながら、オレは今、白石さんが運転する車に乗っている。
予定通りに、オレを池のある公園へと連れて行ってくれる白石さん。オレが感じている不安を白石さんには知られないように、オレはなるべくいつも通りを心掛けて。
「……この時期だと、桜はもう見れないですよね」
運転に集中している白石さんに、オレはそう問い掛けた。何か話そうと口を開いたものの、話題が暗くてオレの心が透けてしまいそうだけれど。
「さすがに、桜はもう散ってるけど……今ならたぶん、藤の花が綺麗に咲いてるころだ」
一緒に眠れなかったけど、今日の白石さんは朝からいつもと何ら変わりなくて。桜が見れなくてオレが落ち込んでいると思ったのか、白石さんは優しい声色でそう言ってくれた。
「藤の花?」
「あの公園、池から少し離れたところにすげぇー数の藤棚があんだよ。この前は行ってねぇーから、今日はそっち側見て周るか」
「……うん、楽しみにしてますね」
白石さんと一緒にいられるってだけで、幸せだと思っていたのに。幸せの中で感じる寂しさを知ったオレは、白石さんの優しさを、素直に受け取っていいのか考えてしまう。
広いベッドで眠ったオレと、眠りに就くには窮屈なソファーで横になっていた白石さん。オレがゆっくり眠れるようにって、白石さんはそう言って笑ってくれたけれど。
楽しみにしていたはずのゴールデンウィークの初日は、新しく知った感情に早くも振り回されてばかりいる。
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