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第193話

公園での、お散歩デート……って言っても、オレと白石さんが手を繋ぐわけじゃないし、並んで歩いているわけでもない。 白石さんは公園の駐車場から目的地の藤棚まで、比較的ゆったりとしたペースで歩いているけれど。なんとなく周りの目が気になるオレは、キョロキョロと公園の風景を眺めながら歩いていく。 「この前ここに来たときは、すぐに雨が降ってきて帰っちゃったから気づかなかったけど。この公園って、こんなに広かったんだ」 大きな池に浮かぶスワンボートを視界に入れながら、オレは白石さんの後ろで呟いた。 「そうだなぁ……あれは、俺の計算ミスだ。でも、今日は晴れてて良かったな」 オレの声を聞き、後ろを振り返って話してくれる白石さんはやっぱり優しい人だと思う。たぶん、こうした白石さんのさり気ない振る舞いにオレの心は惹かれているんだ。 けれど。 公園で遊ぶ子供たちや、仲良さそうに手を繋いで歩くカップルをぼんやりと眺めて思うことがある。 オレがもし、女の子だったら白石さんと堂々と手を繋いで歩けたのかなって。同性同士で、好き合うなんて……やっぱり、世の中のタブーなんじゃないかって。 そんなことを考えていたオレの意識の遠くの方で、白石さんの声がする。 「星、せい、せーいくーん、余所見してるとケガすんぞ」 ポカッとオレの頭に白石さんの大きな手が置かれて、ぐっと白石さんの方を向かされた。 「あぁ、ごめんなさい。オレ考えごとしてて、白石さんってサッカー得意なんですか?」 考えていたこととは、まったく違うけれど。 サッカーボールを蹴って遊んでいる子供たちが目に止まり、オレは白石さんに話を振った。 「……まぁ、それなりに」 そう言って、なぜか遠くを見つめる白石さんの横顔。 なんで、幸せなのに苦しいんだろう。 今はなぜか、一緒にいるのにお互いがとても遠くにいる感じがして……触れたいのに、届かない。 そんな少しだけ重たい空気を背負いつつも、周りの風景を頼りにオレは白石さんと話しながらゆっくりと歩みを進めて。目的地の藤棚までやってきたとき、オレはその景色に感動した。 雲一つない青空と、藤棚を覆う薄紫色の小さな花。オレが想像していたよりも、ずっと多くの藤棚の列が続いている。 ……すっごく、綺麗。 散歩道を挟むようにして、両サイドに藤棚が並ぶ光景はとても美しかった。 「気に入ったか?」 白石さんからそう尋ねられ、オレはうんうんと首を縦に振る。そんなオレの反応を見て、満足そうに笑った白石さんはオレの頭を撫でてくれた。 そうして、散歩道の傍にあるベンチに二人で腰掛け、藤の花を間近で眺めて見る。木陰に吹く柔らかな風が心地よくて、オレは深呼吸をすると瞳を閉じた。 視界が暗くなると、他の五感が鋭くなる気がする。散歩をしている犬の鳴き声や、藤の花の甘い蜜の香り、そして。 オレの右手に触れた、白石さんの左手。 「星、愛してる」 触れられた感覚と、白石さんの声に反応して。オレがゆっくり目を開けて白石さんの方を見ると、そこにはすごく綺麗な瞳があった。太陽の光に照らされた淡い色の瞳は、琥珀のように輝いて見えて。 その瞳の中に、オレがいる現実を知った。

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