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第194話

「白石さんは、いつからオレのこと……その、好きって思うようになったんですか?」 好きって、分かってから、自覚してから。 ずっと、気になっていた。 オレは、いつから白石さんが好きで。 白石さんは、いつからオレのことを好きになったんだろうって。 白石さんの瞳に映る自分には、自信がない。 目を逸らし、繋がれた手をオレから離して……膝の上でぎゅっと両手を丸めたオレは、白石さんから距離をおく。 そして。 小さな不安を隠して、オレは理由を探るんだ。 そうでもしないと、気持ちが不安定で泣き出してしまいそうだから。 でも。 「初めて会った時から、だな。好きって気持ちはいつの間にかだったけど、触れたいと思ったのは星を見た瞬間からだった」 予想外の言葉に、胸が高鳴っていく。 間近で見る藤の花は、小さな紫色の花がいっぱい咲き誇っていて、可愛らしくて、とても綺麗で。 オレからの問いに、白石さんはしっかりと応えてくれたのに。オレも、白石さんに気持ちを伝えなきゃって思うのに、言葉が出てこない。 「……なぁ、星。藤の花の、花言葉って知ってるか?」 言い表わせないくらいの感情を抱いて、俯くことしかできないオレに、白石さんはそう尋ねてきて。 花言葉、オレは知らないけれど。 それよりも、白石さんから花言葉って単語が出てきたことに驚いたから。 「知らないです……というより、白石さんが花言葉って似合わないですよ?」 思ったことをそのまま口にしたオレに、白石さんは少し照れたように笑った。 「うるせぇーよ、俺も自覚あんだから。でもさ、藤の花言葉って、優しさ、歓迎、恋に酔う、決して離れない、なんだとさ」 「……決して離れない、ですか」 オレも、白石さんから離れたくない。 好きすぎて苦しくなる感覚も、少し離れただけで寂しさが募る想いも、触れられないことへの不安な感情も、全部含めて。 こんなにも愛おしい気持ちを教えてくれたのは、誰でもない白石さんだから。 大好きだって、伝えたいんだ。 そんなオレの思考が、一気に溢れ出るみたいに。フワッと暖かな春風がそよいでいく。その風で目を細めたオレを、真っ直ぐに見つめるのは淡い色の瞳。 「俺は、星から離れねぇーし、離さねぇーから安心しろ」 紫色の背景に、柔らかく微笑む白石さんはとっても素敵だったのに。 「なんて……似合わないコト言うもんじゃねぇーな、向こうで煙草吸ってくる」 白石さんはそう言うと、ベンチから立ち上がって歩き出していってしまった。 「あ、ちょっと待ってくださいっ!オレも一緒にっ……ぅ」 オレは駆け足で白石さんを後ろから追いかけると、急に立ち止まった白石さんの背中に思いっきりぶつかってしまった。 「あっ、ごめんなさい」 謝るオレに、白石さんはニヤリと笑って。オレの耳に触れた唇から、奏でるように聞こえてきたのは。 「マジで離す気ねぇーから、覚悟しとけ」 そんな、白石さんらしい言葉だった。

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