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第195話
公園からの帰り道、オレと白石さんはショッピングモールに立ち寄った。兄ちゃんたちとのお泊まり用品を買い揃えるため……の、予定だったんだけれど。
オレも白石さんも、いまいち何を持参すればいいのか分からなくて。結局、二人で楽しくウインドウショッピングをした売り場は、キッチン用品と食品売り場だった。
そのままの流れで、たまにはフードコートで食事をしようって話になって。オレたちの地域では、お馴染みのラーメン屋さんで夕飯を済ませ、白石さんのお家に戻ってきたころにはすっかり夜になっていた。
そして、今。
お風呂に入り終わったオレの髪を、白石さんがドライヤーで乾かしてくれている。
自分でできるって、オレは言ったんだけど。星に触れていたいから、俺にやらせてって……白石さんに笑顔で言われたから、オレは断れなかった。
「星の髪って、サラッサラでウルウルだな。すげぇー羨ましい」
温かな風と、白石さんの大きな手がオレの髪に触れる。その感触がとても気持ちよくて、オレは頬を緩ませつつも目を閉じる。
「オレは、白石さんのふわふわな栗色の髪の方が好きですよ?」
髪の長さも、柔らかくてふわふわな毛質も、暖かみのある色合いも。髪だけじゃなくて、オレは白石さんのすべてがいいなって思うんだ。
こうして話しているときは、声が聴き取りやすいようにドライヤーを離してくれたり。ご当地ソウルフードの話題で盛り上がったら、一緒に食べようって誘ってくれたり。
白石さんといると、何気ないひとときがとても大事だと実感できるけれど。
「無い物ねだり、だな……俺はお前が欲しくて、お前は俺が欲しいって」
ドライヤーの独特な音が切り替わり、そうしてオレの髪に触れていくのは、風量が抑えられた冷風で。ヘアブラシでオレの髪を整えてくれる白石さんの呟きを聞いたオレは、少しだけ頬を染めてしまった。
「欲しいって……まぁ、間違ってはないですけど。なんか、その言い方だと恥ずかしいです」
好きすぎて、全部が欲しくなる。
それは、オレが白石さんに感じている気持ちだったから。オレの本音を見透かされたような白石さんの言葉に、オレは少し動揺した。
それでも、穏やかな時間は変わることがないから。白石さんはドライヤーを止めて、オレの前髪を左右に分けると、オレのおでこにキスをした。
「星、お前すっげぇー可愛い」
「可愛いって……オレ、男です」
今更ながらに、白石さんが言う可愛いに反応する。可愛いって……白石さんに言われるのは、ちょっぴり嬉しいけれど。白石さんにはオレが可愛く見えていたとしても、オレは女の子じゃないんだ。
「男でも、俺から見た星は可愛いーの。文句は言わせねぇーからな、ありがたく受け取れ」
嬉しいのに、大好きなのに。
モヤモヤした感情が、オレを包んでいく。
白石さんに伝えたって、どうにかなる問題じゃないのに。
「……なんでオレは、女の子じゃないでしょう。どうして、白石さんは男の人なんでしょう。オレね、口でするコトは知らなかったけど……その、男女が愛し合う方法くらいは知ってるんです」
オレは、女の子じゃないから。
白石さんと繋がることができないんだ。
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