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第208話
周りには子連れの家族やカップル、友人同士で遊んでる奴らがちらほらいるけれど。海に来ている開放感からか、星の可愛さからか、俺はポケットから手を出し星の手を握ってやった。
「あの……ここ、外です」
恥ずかしそうに、そう洩らす星だけれど。
俺の手を振り解くことはせずに、星は俯くだけだったから。
「誰も見てねぇーよ、周り見てみろ。みんな自分たちがやりたことやって、それぞれ楽しんでんだ。だから俺たちも、したいことすんは当然だろ」
「……うん」
嬉しそうに、照れ臭そうに。
顔を真っ赤にして歩く星と手を繋いで、俺は波打ち際まで辿り着いた。
冷たい潮水に脚をつけると、寄せては返す波にさらわれそうになる。
「冷たくて気持ちいいですねー、泳げなくても充分楽しいっ!白石さんの脚、砂に埋もれていきますよ?」
星は寄せて返してを繰り返す波と、一緒になって追いかけるように遊んでいる。たまに強い波がやってくると、星はよろけて俺にしがみ付いてきて。
「お前が引っ付いて、離れねぇーからだろ……俺、さっきからお前支えっぱなしなんだけど」
「だって、したいことしていいって、さっきオレにそう言ったのは白石さんじゃないですか」
「ん、確かに」
可愛い星の頭を撫でて幸せを感じていると、遠くの方からキャーキャー言ってる金髪野郎が全速力で走ってきた。
「あははぁーっ!捕まえてごらんなさぁーいっ!!」
その後ろから、こちらも全速力で走る優の姿が見える。
「……兄ちゃん、手になんか持って、全速力でこっちに走って来ますよ?」
「光の方が、走るの速いからな。優、追いつけないんじゃねぇーのか」
サラサラの金髪をなびかせて走ってきた光は、少しだけ息を切らしながら大爆笑している。そんな光の手に握られていたのは、優がいつもかけている眼鏡だった。
「ハァーっ!砂浜、走るのしんどいっ!ユキちゃんたちいつの間に来てたの?俺ね、今憧れだったことを一つ、ヤり終わったところなの。捕まえてごらんなさーいって、一回砂浜で走りたかったんだよねー」
兄貴のアホさが信じられないのか、星はキョトーンとしている。潮水に脚をつけたまま、俺は星の腰に手を回して次に来る波に備えつつ、感想を述べていく。
「それって女がゆっくり走りながら、男が捕まえるやつだろ。全速力じゃ、ムードもナニもねぇーじゃん」
「それがねー、最初はゆっくり走ってたんだけど、途中からつまんなくなってきちゃって。全速力で走り出したら、優があまりにもムキになってついてくるから、面白くって!あーもう、すっごく楽しかった!!」
「そりゃ、眼鏡拉致られたらムキになって追いかけるだろ」
爆笑する光と俺たちの元へ、ヘロヘロになった優が息を切らしながらやってきた。
……コイツ、眼鏡外すと相変わらず良い顔してんな。
「ハァ…光、ハァ…眼鏡を、返しなさい」
「めっちゃ息切れてるしっ!すぐるーっ、大好きっ!!ハイ、もう俺、満足できたら眼鏡返してあげる。でも、追いつけなかった罰は受けてもらうから」
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