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第209話
光は優の首に腕を回し抱き着くと、優に眼鏡をかけてやっていた。その後、優から荷物を預かり、その辺にあった流木に腰かけて。俺と星は、はしゃぐ光を眺めている。
「兄ちゃんって、本当に優さんと仲が良いんですね。優さんといる兄ちゃんが、一番楽しそうで、一番綺麗な顔してます」
「まぁ、あの二人付き合い長いからな」
「でも、優さんは大丈夫なんですか?」
「優は好きで光に付き合ってっから、いいんじゃねぇーの。優も相当な頭のイカれ具合だからな、じゃなきゃ今頃あんなんになってねぇーだろ」
優は、光に追いつけなかった罰を受けている。
上半身裸で腰まで海水に浸かり、光が耐えろといった時間だけ海水に潜っていた。
「優さんだけ、ずぶ濡れです……スマホも、眼鏡とかも、全部預かってるからいいですけど」
光はかなり楽しそうに、容赦なく冷たい潮水を潜る優に浴びせていく。優はもうびしょ濡れで、水も滴る何とやら……それでも、楽しそうに笑う光を見つめて優は笑っていた。
あんな付き合い方もあるのか、と。
友人二人を見て思ったが、優が悦んでいなければ、アレはただの水責め、拷問だと思った。
そんなアブノーマルな二人の姿を視界に入れたくなかったのか、星はその辺の木の枝で砂に絵を描いて遊んでいる。
「星、それなに?」
「これは、オレから見た白石さん。白石さんって、髪型とか雰囲気とか狼さんみたいだから。あ、でも群れてるイメージはないかなぁ……んーと、こんな感じで髪がふわふわで」
そう言いながら砂浜に描き上げた星の絵は、デフォルメされた狼のイラスト。
「お前、絵描くの上手いんだな。すげぇーじゃん……ってか、俺が狼なら、星は……」
俺は足元にあった枝で星が描いた狼の隣に、羊の絵を描いた。
「白石さん……それ、なんですか?オレは、地球外生命体じゃないんですよ」
「お前なぁー、見りゃわかんだろ?羊だ、羊。俺が狼なら、お前は俺に喰われれる仔羊だろーが」
「誰がどう見ても、羊さんには見えません。白石さんって色んなことができるのに、絵の才能はないんですね。羊さんはね、こんな感じに描くんです」
星はすらすらと、可愛らしい羊の絵を描いていく。片手には木の枝を持ち、もう片方の手で頬に落ちる髪を押さえている星。
「クッソ可愛いな……そりゃ、喰われて当然だ」
そんな星の姿があまりにも愛おしく、星が羽織っているパーカーのフードを頭にふわりと被せてやり、俺は目の前にいる仔羊に口付けた。
「っ…」
小さく漏れる、星の吐息。
唇を離して見つめ合えば、愛らしい仔羊はまるで狼に食べてと訴えているようだった。
もう一度。
更に深く味わおうと、俺が星を抱き寄せた瞬間。
「ユキちゃーんっ!せーいっ!タオルとってぇーっ!!」
見事に光の声で遮られ、星は俺から離れ立ち上がるとタオルを持って歩き出すけれど。
「……白石さん、残念でしたね」
ふりむきざまにそう言って、チラッと赤い舌を覗かせた星に、俺は息を呑んだ。
……なんだ今の、すげぇーそそられんじゃねぇーか。
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