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第211話

「……この辺りでいっか」 「この辺に、何かあるんですか?」 俺も星もすっぽりと隠れるテトラポットの裏側、そこに身を潜めた俺は、星を抱き寄せていく。 「何もねぇーけど、羊はいる」 「……はぁ?」 俺の発言に呆れ気味の星だが、さっきの表情をまた見せてくれるのなら、俺はいくらでもアホになってやろうと思うから。 「なぁ、星くん……ちょっと舌、出してみて」 「いや、え……アンタ、何言ってんですか」 呆れ方も、生意気な呼び方も。 開放感で溢れた海辺では、誘いと変わらない。汗ばんだ白い肌に、潮風が香る黒髪。そこに栄える赤い舌を、もう一度覗かせてほしい。 「アンタって言われるのも悪くねぇー、その生意気な感じで舌、出してみろ」 星は首を傾げながらも、上目遣いで俺に向けて赤い舌をチロリと覗かせる。 「いただき」 「あ、ちょっ…んっ…」 チロリと出された星の舌に、吸い付くように舌を絡ませぴちゃりと音を立てながら、俺は更に深く味わっていく。 「はぁ、んっ…ンッ」 苦しそうに息をする星に合わせて、一度唇を離してやると、俺は涙目で睨まれた。 「ん、ぁ…ここ外っ!」 星の腰を支えて、小さな耳に甘噛みしながら俺はニヤリと囁いて。 「俺のコト、狼とか言ったお前がわりぃーんだろーが、羊は美味しく喰われるモンなんだよ」 「あっ…やぁ、だからってっ…こんなところで、だぁ…め」 抵抗する星の動きが、一瞬にしてピタリと止まる。星が見つめる視線の先を辿っていくと、さっきまで誰もいなかったハズの場所に、光と優が立っていた。 ────カシャッ。 今にも俺に喰われそうな星の姿をスマホのカメラに収めると、光は溜息を吐き口角を上げて笑う。 「行き着いた場所がユキと一緒って、すごいムカつくんだけど。この写真、無理矢理ヤってるようにしか見えないし、ユキ……お前、今から警察にでも突き出してやろうか?」 ……警察に突き出す気なら、最初からコンドームなんて渡すんじゃねぇーよ。 「光、落ち着きなさい。雪夜、お前は性欲の塊だな。気持ち悪い、嫌がる相手を無理矢理ヤって何が楽しい?お互い合意の上で行う行為だからこそ、意味があるんだ」 顔色ひとつ変えずに荷物を持っている優は俺にそう言って、さり気なく光の肩を抱いて笑う。 「嫌よ嫌よも好きのうちだ、星のイヤはもっとしてだからな。可愛い星くんの、せめてもの強がり。それも分かってヤんだよ、バーカ」 「白石さんっ!オレのこと、好き勝手言わないでくださいっ!兄ちゃんも、無理矢理じゃないから警察なんて言わないでっ!」 真っ赤になりつつ、サラリと俺の意見を肯定した星の言葉に、固まる友人二人とニヤける俺。 「……ユキ、今ここで星を俺に喰われたくないならそこどけよ。あと30分したら、家帰って風呂行くから。お子ちゃま二人は、貝殻でも拾ってくれば?」 苛立つ光の言葉に頷く優と、固まる星。 俺は静かに星の肩を抱くと、その場を光に譲ってやった。

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