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第212話
あと、30分。
その30分の間に、あの二人はあの場所でナニをする気なのだろう……おおよそ、想像はつくけれど。
人に変態だの何だの言っておいて、自分たちも充分変態だという自覚が、アイツらにはあるんだろうか。
そんなことを考えつつも、俺と星は夕日に染まり始めた砂浜を歩いていく。
「兄ちゃん、機嫌悪かったです……オレ、やっぱり来ない方がよかったんでしょうか」
「んなコトねぇーよ、気にすんな。単純に、俺が勝手に荷物押し付けたから機嫌悪かっただけだろ。あと30分して戻ってきた頃には、すっかり機嫌よくなってっから安心しろ」
……ヤることヤって戻ってくりゃ、スッキリした顔で現れんだろ、色んな意味で。
おそらく、あの二人は俺が星に仕掛けた悪戯の延長線上にいるのだろう。光が止めに入ったおかげで、俺は未遂で済んだけれど。
星はまだ、光の顔色がコロコロと変化することに馴れていないだろうから。俺の身勝手な悪戯心で、星を振り回してしまったけれど。
俺がどうこうしていなくても、星はそのうち光の本性と向き合う日がくる。
「兄ちゃんが、あんなに喜怒哀楽が激しい人だったなんて知らなかったです。今日の兄ちゃんは特に、前に白石さんが言ってた通りだった」
「光はつかみどころのないヤツだから、本当は支配力が強いんだと思う。そのすべてを曝け出しても問題ないのは、執事の優だけだからな」
パーカーのフードに隠れた星の横顔が、とても儚く見えて。隣を歩いている俺は、何故だか足を止めていた。
「……白石、さん?」
俺より先を歩いていた星は、振り返って俺を見る。真っ直ぐに向けられる瞳には、俺だけが映り込んでいた。
「お前が不安に思う必要はねぇーから、大丈夫だ。光はちゃんと、お前のことを大事に思ってる」
今、伝えなければならない気がした。
星には一度、伝えたことがある言葉だけれど。過去と今では状況が異なり、そしてこの先も移り変わってゆくだろうから。
根拠のない勘だったけれど、それは間違っていなかった、と……そう感じることができたのは、星が俺に向かい可愛い笑顔を見せ、大きく頷いてくれたからだ。
「白石さん、大好きです」
俺が三歩分進めば、星に触れられる距離。
その距離を自らの足で埋めて、俺に抱きついてきた星。
「俺も、すげぇー好き」
小さなカラダを抱きしめて、俺が幸せを感じていたとき。星はパーカーのポケットに手を入れて、握った手を俺に差し出す。
「コレ……二枚ちゃんとくっついてるのって、珍しいのかなぁって思って。想い出にもなるし、持って帰ってもいいですか?」
そう言って星が見せてくれたのは、白い小さな二枚貝が蝶のような形にキレイに開いている物だった。欠けたり割れたりせずに、状態の良い物を拾えたことが嬉しかったんだろう。
「もちろん、すげぇーキレイだな」
俺を見上げて、にっこりと笑う星は可愛すぎる。今だけは、俺はアホでも、お子ちゃまでも、構わないから。
オレンジに色付く空と、白く光る波。
夕日が沈む海辺を背にして、俺と星は触れ合うだけのキスを交わした。
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