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第213話

満足そうな顔をして、ぴったり30分後に戻ってきた光と優。最初から何事もなかったかのように振る舞う光に、星は戸惑っていたけれど。 優が光のお守りをし、俺が星の気を引いて。 なんだかんだで、俺たち四人の空気感は穏やか……では、ないようだ。 「温泉行こう!お風呂、お風呂入ろ!」 「光、悪いが少し待ってておくれ。海で濡れた服の洗濯がまだ終わっていないから、あと10分はこのままだ」 「洗濯機も乾燥機も使えて、お風呂やキッチンも自由に使えるってすごいですね」 「でも、ここのお風呂だと家のお風呂と変わりないから、やっぱり温泉がいい!」 「誰も温泉に行かないなんて、言っていないだろう……光、大人しく待っていろ」 一度、宿に戻ってきた俺たちだが。 海で濡れた服を洗濯し、乾燥機に掛けるまでの所要時間はおおよそ10分。その時間すら惜しい光は、ソファーに腰掛け優を睨み頬を膨らましている。 「優さん、本当に色んな物を使っても大丈夫なんですか?」 「勿論だ、むしろ使ってくれた方がこちらとしてもありがたい。今後の参考にするために、キッチンやアメニティ等の使用感を知りたいらしいから」   「あー、だから俺らが実験台ってコトか。ここならホテルや旅館と違って、周り気にしなくていいから楽だわ」 光と優の会話に混じりながら、俺と星は真新しいカウンターキッチンのイスにゆるりと腰掛ける。 「隠れ家的な感じで、とっても素敵なお宿ですね。徒歩圏内に海があって、公園があって、コンビニがあって、お風呂屋さんもあるから立地も悪くないですし」 「ショッピングモールも車で15分くらいのところにあるから、何かと便利だよね。息抜きに遊びに来るなら、うってつけの場所だと思う」 「まぁ、だからゲストハウスとして一軒家をリフォームしたのだろう。今後は、一日一組限定の宿として運営予定しているそうだ」 「色んな商売があんだな……けど、俺らは宿代無料で楽しめんだから、ありがたい限りだ」 のんびりと寛ぎつつ、宿の感想を各々が語って。洗濯完了のセンサー音がリビングに響くと、光は嬉しそうにソファーから立ち上がる。 「よし、今からみんなで温泉に行こう!」 ここにいる誰もが薄々気づいてはいるが、落ち着きがなくはしゃいでいるのは光だけだ。そしてその光は、厄介者の金髪悪魔だから。 「さっきヤそびれたユキちゃんは、お風呂でせいを襲わないようにね?」 「スッキリした顔しやっがって、誰があの場を譲ってやったと思ってんだよ。流石に公共の場で襲うほど、俺の頭はイカれてねぇーからな」 「外であのようなことをしてた奴が、今更そんなことを言っても説得力がない。雪夜、お前の頭はすでにイカれている」 洗濯物を乾燥機へと移し終えたらしい優は、俺にそう声を掛けつつも眼鏡を上げてニヤリと笑う。そんな優の腕に絡みつき、妖しい笑みを浮かべる光。 アホな友人どもに、かったるく文句を言う俺。 星だけが、俺の隣で真っ赤になりながら何も言わずに俯いていた。

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