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第215話
【星side】
「お前ら兄弟、そっくりな……人のカラダに爪立てんの、お前も好きだろ」
白石さんは小声でオレにそう言うと、ニヤリと意地悪な笑顔を見せる。そんな表情すら、かっこいいと思ってしまうオレは、白石さんの左手の動きに気づかなくて。
「……っ!」
思わず声が出そうになって、オレは唇を噛んでしまった。そんなオレの反応を見て満足そうに笑った白石さんは、何事もなかったように兄ちゃんに引っ掻かれる優さんを見て笑っていた。
宿にいるとき、兄ちゃんたちにはお風呂じゃ襲わないって、白石さんはそう言っていたのに。白石さんの左手は、オレの腰を撫でて遊んでいたから。
白石さんに、狼さんなんて言うんじゃなかった……って、今更しても遅い後悔の念を募らせて、オレはただお湯に浸かっている。
白石さんと海でたくさん遊んで、一緒に夕日を眺めたり、今だって露天風呂はこんなに心地いいお湯なのに。
……白石さんって、本当に何考えてるかよくわかんない人で困る。
好きなんだけど、大好きなんだけど。
なんで白石さんは、こんなに変な人なんだろうって時々思ってしまう。
基本的には優しい人なんだけれど、意地悪がすぎると、オレの許容範囲を軽々と越えてしまうから。
でも、それも本当に嫌かと聞かれるとそうではなくて……上手く説明できない気持ちになるから、オレの中での括りは変な人になってしまうんだと思った。
「はぁ……気持ちいい、ここのお湯」
ポツリと独り呟きつつ、温かい温泉に浸かりながら、オレは兄ちゃんたちと話す白石さんをチラ見する。
ふわふわの髪は水に濡れてツヤツヤしているし、その毛束が綺麗なフェイスラインを隠しているのもドキッとするのに。
ソレが邪魔だったのか、白石さんは濡れた手でその髪をかき上げてしまったんだ。その一連の仕草が、オレの心をグッと掴んでしまう。
変な人でも構わないから、オレはこの人の側にいたいなって……そんなときめきいっぱいの心を隠すみたいに、オレは夜空を見上げた。
昼間の海辺で見た空とは、まったく違う色合いをしているのに。濃紺の中に光る小さな星たちがキラキラと輝いて見えて、すごく素敵だと思った。
そういえば、今日が晴れるように優さんは本当にお祈りをしたのかなって……ふと気になったオレは、視線を空から優さんへと移したけれど。
眼鏡を外していると、優さんは別人のように見えるってことをオレは今日知ったばかりで。他人に見えた優さんを脳内変換で知人にするのに、オレは少し手間取ってしまった。
普段は眼鏡で隠れている細くて長い睫毛と、綺麗な鼻筋。兄ちゃんや白石さんに負けないくらい、優さんの素顔はかっこいい。
大人な三人の中に紛れ込んだ子供のオレは、ちょっぴり切なくなってしまうのに。そんなことは露知らず、兄ちゃんは優さんに意地悪をして遊んでいるし、白石さんは優しくオレに微笑んでくるから。
もうこの三人は、みんな変な人だと思うようにして。オレは、先にお湯から出ると脱衣所へと向かったんだ。
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