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第217話

「光、お前どんだけ飲むつもりでいんだよ。酒、買い込みすぎじゃねぇーか?」 宿に戻り、テーブルを囲うようにL字型のソファーにみんなで腰掛けて。今からは、たぶんきっと、大人な時間がやってくると思った。 ローテーブルの上には、たくさんのお酒が並んでいるから。缶とかビンとか、さまざまなお酒があるけれど。 オレはそのどれにも手をつけることなく、コンビニで白石さんに買ってもらったシュークリームを頬張っている。 「ユキちゃんとせいも、好きなの飲んでいいよ。ただし、優は飲んじゃダメ」 このあいだ、ランさんのお店で会ったとき。 運転手の二人、白石さんと優さんは飲まなかったけれど。優さんって、お酒弱いのかなって……そう思ったオレの考えを代弁するように、白石さんが尋ねてくれる。 「……優って酒、弱かったっけ?てか俺、優が酒飲んでる姿見たことねぇーかも」 オレを見てふわりと笑いながら、白石さんはオレの隣でお酒のビンを手に取った。 「弱くないんだけどね、その……」 優さんの隣にいる兄ちゃんが、珍しく言葉を濁している。こんなふうに口籠もる兄ちゃんを見たことがなかったオレは、その理由が気になるけれど。 「弱くはない。ただ、光が困るだけだ」 優さんはそれだけ言うと、眼鏡をクイっと上げていた。 「なんだそれ」 白石さんはそう言って、お酒のビンに口付ける。結ばれた髪がふわりと揺れて、かっこいいなって思った。 「星くん、飲んでみるか?」 オレは白石さんを凝視したまま、こくこくと頷いた。そんなオレの反応を見て白石さんはウインクすると、オレにお酒のビンを手渡してくれたんだ。 「……いただきます」 ゆっくりと、オレは初めてのお酒を口にする。 ほのかに感じる、レモンの甘さと少しの炭酸。 「せいとユキちゃん、間接キッスぅー」 兄ちゃんは優さんの隣で笑いながら、缶ビールを水のように飲んでいる。 「星、飲めそうか?」 「お酒ってこんな味がするんですね、美味しいです」 「残りやるから、今日はそれだけにしとけ」 オレはちびちびと、もらったお酒を飲みながら、白石さんの結ばれた髪に触れてみる。白石さんの髪はやっぱりふわふわで、狼さんの尻尾みたいだなぁって思った。 くるくると、白石さんの襟足の毛を指に巻き付けて遊んでいるオレに、白石さんはオレにくれたのとは違う缶酎ハイを飲みながら、嬉しそうに笑う。 「お前、本当に俺の髪好きなのな」 「だってふわふわで、気持ちいいんですもん」 「ユキちゃんの髪は、地毛だもんね。パーマもかけてないのに、エアリーでふわふわだし。俺なんて、金髪に染めるの大変なんだから」 「金髪じゃなくてもいいだろう。黒髪でも、充分綺麗なのに」 「俺の髪はせいと違って、漆黒じゃないからね……それに、王子様なら金髪でしょ?」 「……兄ちゃんって、そんな理由で金髪だったの?!」 「バカだな」「馬鹿だ」 白石さんと優さんの二人に馬鹿だと言われた兄ちゃんは、とても意地悪な顔をして笑った。

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