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第219話
自分が、自分じゃないみたいだ。
オレは白石さんに微笑みかけると、白石さんの上に跨り両手を首に回した。
「……星、お前どーした?」
白石さんは、オレの行動にすごく戸惑っているみたいで。なんだかそんな白石さんが、とても可愛く思えたオレは、ニィと笑って白石さんの耳元で囁いていた。
「白石さん……キス、しよ?」
「お前、まさかあの量で酔った?」
酔っているのか、なんて分からない。
でも胸はドキドキしてて、白石さんが困ってる顔が見たいなぁって、そう思っちゃうオレがいるのは事実だから。
「……キス、してくれないの?」
首を傾げたオレの頭をふわりと撫でた白石さんは、持っていたお酒の缶をテーブルに置いた。
「俺、煙草吸いてぇーんだよ。外行くけど、星も来るか?」
白石さんが二人きりになれる口実を作ってくれたことが嬉しくて、オレは白石さんの問い掛けに大きく頷いた。
そんなオレたちのやり取りを見ていたらしい優さんは、空になった缶ビールを手にして白石さんにこう言ったんだ。
「雪夜、二階のバルコニーで吸って構わない。火の始末だけは、徹底してくれよ。寝室も、水回りも二階にあるからすぐに分かる。星君を連れて、できればそのまま朝まで上にいてくれ」
「ん、了解。んじゃ、俺ら荷物持ってそのまま上で寝てくるわ」
白石さんは聞き分けのいい返事をして、オレを抱き上げ二人分の荷物を持ってくれる。
眠りに就く準備をしていたオレたちと違い、険悪なムードの兄ちゃんと優さんは、ソファーで言い合っていた。
「優、なんで飲んだのっ?!しかも、ビールイッキ飲みするなんてっ!」
優さんからお酒の缶を奪い取ろうとした兄ちゃんは、優さんに手首を掴まれ睨まれている。
「……言うことを聞かない、我が儘な王子の命令なんて、わざわざ俺が聞くわけないだろう」
そう言った優さんは片手で兄ちゃんの手首を掴んで、空いた片手で眼鏡を外してしまった。
「優……あの、離して、やめて」
いつも、誰にでも。
余裕そうに笑っている兄ちゃんが、お酒を飲んだ優さんに睨まれて、完全に怯えている。抵抗しようとする兄ちゃんを嘲笑うみたいに、優さんは口角を上げて笑っていた。
「我が儘な王子を調教するのも執事の役目だ、光。大人しくできないのなら、今ここで雪夜たちに観られながら啼くといい」
優さんのそのひと言で、蛇に睨まれた蛙みたいに兄ちゃんは動きを止めて俯いてしまって。オレは少しだけ兄ちゃんが可哀想に思えたけれど、オレにできることが分からなくて何も言えなかった。
「お前ら……まぁ、いいや。星、上行くぞ」
白石さんは二人に何か言いかけて、でもその言葉は呑み込んで。まだ灯りがついていない二階へ上がるため、階段を上り始めてしまったから。
「……え、うん。優さんも、兄ちゃんも、おやすみなさい」
オレは俯いたままの兄ちゃんと、眼鏡を外して妖しげに笑う優さんに向かい挨拶をすると、先に二階へと上がった白石さんを追いかけて階段を上った。
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