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第225話

静まり返った真夜中の空気に、漂っていく紫煙がやたらとキレイに見える。独りバルコニーへ出て、行為後に吸う煙草はかなり美味い。 食後のデザートのような気分で、ゆったりと煙を吸い込んで。吐き出す時に咽喉を通り過ぎていく煙を感じながら、頭がクリアになる瞬間を味わう。 ……星、すっげぇー可愛かった。 泣きじゃくり、それでも必死で俺に縋る星の姿を思い出す。そして、俺は当然のようにニヤけていくばかりだ。 誘い上手な星に乗せられ、欲全開に責め立ててしまったけれど。あんなにエロくて可愛い乱れ方をされたら、途中で止めてやることなんてできなかった。 いや、正確には止めかけた手を星に取られて。快楽の渦に、引き摺り込まれたような気分だった。俺の悪戯心もすらも、受け入れてくれた星には感謝しかない。 だが、しかしだ。 俺は今まで、どれだけクソなセックスをしてきたのだろうと……星を抱き終えると、無駄に考えてしまう。 過去の俺は、優しさのカケラもなく、俺の興奮材料はスポーツの時とさほど変わらないものだった。勝者だけが得られる優越感を得て、満足していたにすぎなかったのだろうと思う。 相手の反応に、ここまで欲が出ることなんて今まではなかった。それに、いくら抱いても足りないなんて気持ちになったこともない。 正直、俺は淡白な人間だと思っていたのだが……どうやら、星を相手にするとそうではなくなるようだ。 そんなことを考えつつも、煙草を吸い終えた俺は寝室に戻った。宿の布団は、どうにか汚さずにコトを終えられたし、下の二人は未だにリビングにいるようだったし。 星のカラダをキレイにしてやるため、俺が一度寝室からシャワー室へと向かった時。二階にあるもう一つの部屋の扉は、暗がりの中で開いているままだったから。 アイツらは、俺と星よりも長い夜を過ごすのだろうと思う……ただの勘でしかないが、そんな気がした。 けれど、俺には関係のないことだ。 キレイなままの布団に包まって眠る星の頬を、俺はそっと撫でていく。 幸せそうな顔をして眠る星は、もうすっかりいつもの仔猫の表情に戻っていた。 酔いが覚め、この仔猫が全てを覚えているのかは不明だが。俺は、星の体調が悪くならないことを祈るのみだった。 眠る星を抱き寄せて、俺も隣で寝転がる。 背中につけられた爪痕が、ヒリヒリと痛んだ。 新たに噛まれた首筋の痕も、痛みはしっかりあるけれど。何故だか嬉しく想えるのは、遠慮なく星がつけてくれた痕だからだろう。 痛みが増すのは、今日より明日で。 赤く腫れて痣がひくまでの間、一番強く痛みを感じるのは、噛まれて次の日の朝、目覚めたとき。 前回も、そうだった。 あのときは、爪も立てるわ噛まれるわで……俺は、痛みを堪えてバイトに勤しんだのだ。 愛情の裏返しのように、噛まれた首筋にそっと触れてみると、感じる痛みに頬が緩む。 ……俺、星に愛されてんだな。 抱き寄せた星を更に強く抱きしめて、俺たちは一つの布団で眠りに就いた。

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