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第226話

【星side】 目覚めると、オレの隣に白石さんの姿はなくて。二つある布団は、一つが綺麗に畳まれていた。 重たい身体を起こしてみると、いつもは感じることのない腰の痛みに気がついて。昨日の夜の出来事が、夢の中ではなかったことを身体がオレに教えてくれた。 レースのカーテンから、窓の奥に見える後ろ姿。結ばれた栗色の髪が、潮風に吹かれ揺れている。 ……白石さん、煙草、吸ってたんだ。 いつもなら、オレの隣で吸っているのに。 なんか、少し、寂しい……なんて、そんなふうに思うオレは、どれだけ白石さんが好きで、求めてしまっているんだろう。 ふわふわとした記憶の中で、オレは泣きながら白石さんに縋った気がする。 まだぼんやりとした意識のまま、オレがそんなことを考えていると、煙草を吸い終えた白石さんが、部屋の中へと入ってきた。 ふんわりと、ブルーベリーの香りがする。 「……はよ、星」 甘い笑顔でオレを見る白石さんの首筋には、真っ赤な痕が色濃く残っていて。 「……っ」 挨拶もせずに顔を赤らめ俯いたオレを、白石さんは抱き寄せて優しく頭を撫でてくれる。 「星、カラダ辛くないか?」 白石さんの問いに、オレは無言のままコクコクと頷いて、抱きしめてくれた白石さんの細身の腰に、腕を回した。 「お前は本当に、いつでも可愛い反応すんのな」 そう言ってオレの耳元で、クスクス笑う白石さん。首筋……絶対痛いはずなのに、なんでこの人は、平気な顔をして笑ってるんだろう。 「あの、白石さん……首、痕、痛いですよね」 昨日のオレはきっと、思い切り噛み付いてたんだ。白石さんを感じたくて、声を抑えるのに必死で。蘇りつつある記憶は、まだ曖昧なままだけれど……白石さんに残る痕を見てしまうと、申し訳なさが出てきてしまうのに。 「いてぇーけど、すげぇー嬉しいから大丈夫。俺の望み通り、お前は泣きじゃくって乱れてくれたからいいんだよ」 艶のある声で白石さんはそう言うと、オレのおでこにキスをする。 「ぁ、あのっ……」 オレを見つめる、淡い色の瞳。 白石さんと目が合ってしまうと、オレの心は白石さんでいっぱいになってしまうから。上手く言葉が出てこないオレを、しっかりと強く抱きしめた白石さんは、幸せそうに微笑んで、触れるだけのキスをした。 「……星、起きれっか?」 「あ、うん……大丈夫、だと思います」 まだちょっぴり身体はだるいし、腰に痛みはあるけれど。白石さんが気遣ってくれるから、たぶんオレは大丈夫だと思った。 そんなオレの様子に安堵したのか、白石さんはスマホを手に取りオレにこう言った。 「優から、LINEきてんだ。朝メシ食いに行くから、起きたら下まで降りてこいって」 「優さん……あ、兄ちゃんと優さんってどうしたんですか?オレ……昨日のこと、あんまり覚えてなくて」 白石さんと、その……エッチなことをしたのは、思い出してきたけれど。オレは、二人の存在をすっかり忘れていた。

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