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第227話

「アイツらのコトなんかどーでもいいから、俺もよく知らねぇー」 白石さんは本当に面倒くさそうにそう言うと、オレを軽々抱き上げる。 「あっ、ちょっと……自分でちゃんと起きれますから、離してください」 「俺が、お前を抱っこしときてぇーの。このまま下行くから、しっかり掴まっとけ」 「えっ?!ちょ、白石さんっ!」 オレは抵抗できずに、白石さんに抱っこされたまま下へと降りると、ソファーに座って本を読んでいる優さんの膝で兄ちゃんが眠っていた。 「……ああ、おはよう。二人とも、よく眠れたか?悪いな、朝食を食べに行こうかと思って連絡したんだが、光が二度寝してしまった」 「はよ……どうせ昨日散々飲んで、色々ヤったんだろ。光そのまま寝かしといてやれ、起きたら起きたでうるせぇーし」 白石さんは優さんにそう言うと、オレをソファーに降ろしてくれる。そんなオレと白石さんに向かい、優さんは口を開いて。 「雪夜、それはお互い様なのでは……だが、昨日は助かったよ。星君は、よく眠れたかい?」 「あ、はい……おはようございます」 あなたたちの存在を忘れていましたが、オレは昨日とても楽しい夜を過ごして、気持ちよく眠りました……なんてことは、言えないから。 優さんの問いに、オレは朝の挨拶で返事をした。そんなオレを横目で見ていた白石さんも、平然とした顔をしていて。 「それならば、良かった。申し訳ないが、今日の予定は何も考えていないんだ。なんせ、王子様がこんなだから」 兄ちゃんの髪を撫でながら、とても優しそうな顔をする優さんも、特にそれ以上の返答を求めてくることはなかった。そんな優さんの膝の上で大人しく丸まって眠る兄ちゃんの姿は、上品な猫のようで。 ……なんか、兄ちゃんが可愛い。 「兄ちゃん、幸せそうな顔して寝てますね。こんな顔して眠る兄ちゃん、オレ初めて見ました」 「優といるとわがまま放題、やりたい放題だからな。好きなコトできて、幸せなんだろ」 白石さんの言う通り、兄ちゃんは優さんといるときが一番綺麗で、幸せそうな顔をしていると思う。オレが知っている、誰にでも優しくて、キラキラ輝く王子様、ではないけれど。 「星君がよく知る光は、本当に優しい王子様だろう?普段の生活の中で、作り物の王子様を演じることは、俺たちが思っているよりずっと……苦しいことなのかもしれない」 優さんはそう言うと、読んでいた本をパタンと閉じて、眠る兄ちゃんを愛おしそうに見つめている。 作り物の王子様。 サラサラの金髪も、輝いているあの笑顔も。 小さなころから演じられていたそれは、兄としての兄ちゃんの姿で。 優さんだけが、知っている。 白石さんも知らないような、隠された兄ちゃんの姿がきっと、本当はもっといっぱいあるんだろうなって……オレはこのとき、そんなふうに感じていた。

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