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第228話
兄ちゃんが起きるまでのあいだ、オレも白石さんの膝枕でウトウトしていたら、いつの間にか眠ってしまっていて。オレも兄ちゃんも目覚めときには、もうお昼を過ぎていた。
昨日行った温泉に浸かり、食事を済ませて外へ出てみると辺りはすでに真っ暗で。
波の音だけが静かに聞こえてくる人気のない砂浜で、オレたちは今、手持ち花火で遊んでいる。
「花火とか、中坊んとき以来なんだけど……星、これ持っとけ」
白石さんは、いくつかある花火の中から何本かをオレに手渡してくれる。先に遊んでいた兄ちゃんからの火をもらって、オレが持つ花火にもジュワッと火が移っていった。
「小さいときは、よくこうやって一緒に花火したよね。懐かしいなぁ、せいは本当に可愛かったんだよ……兄ちゃん、兄ちゃんって、くりっくりの真っ黒な瞳で見つめてきてねー、俺の後ろをひょこひょこついて歩くの」
「兄ちゃん、恥ずかしいからそれ以上言わないで」
兄ちゃんの中では、記憶にある出来事なんだろうけれど。オレはまったく覚えていない幼少期の話をされると、なんだか気恥ずかしくなってしまうのに。
「今でもせいは、充分可愛いんだけどね。小さいころは、本当に天使みたいだった」
「兄ちゃんだって、本当に綺麗でみんなの憧れの的だったんだから」
昔話をしながら、オレと兄ちゃんが花火で遊んでいる横で、白石さんは煙草を咥えて、優さんは両腕を組んで、オレと兄ちゃんを見つめている。
……なんか、二人とも保護者みたいだ。
「花火、とっても綺麗ですよ?白石さんと優さんは、やらないんですか?」
そう聞くと、白石さんはオレの後ろに回り込んで、花火を持つオレの手をそっと握った。
「これなら、俺も花火してることになんだろ。どうせ同じように火つけて煙が出るなら、俺は煙草の方がいい。それに、こっちの方が星の近くにいれるしな」
白石さんはそう言って、オレの手を握ったまま、宙で花火を振り回す。煙とともに、歪んだハートマークの光が薄っすらと浮かんで消えていった。
「白石さん、なんとも歪なハートですね」
「ユキちゃんの心が歪んでるから、ハートも歪むんだよー?」
「雪夜は画伯だからな。さっきのハートも、何らかの才能だろう」
「お前ら、うるせぇーよ。心が歪んでようが、俺には星がいるし。絵なんか描けなくても、生きていけんだから別にいいだろ」
なんだかんだ言いながら、オレの後ろで笑う白石さんはとても楽しそうで。火が絶えないように花火で遊んでいたら、その本数は残りわずかとなっていた。
「やっぱり、手持ち花火のクライマックスは線香花火だよねぇ……うん、すっごく風情ある」
花火のラストを飾る、線香花火を一人一本手に持って。
「花火の季節には、まだ少しばかり早いがな」
「白石さん、ヤバいです。白石さんの、もう落ちちゃうかも」
「……あー、終わったケド、星のやつ、すげぇーキレイだ」
こんな素敵な時間を過ごせることが、今のオレには嬉しかった。
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