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第230話
【雪夜side】
俺の好きな曲を贈る、なんて。
なんとまぁ、恥ずかしいことを言ったもんだ。一度浮かれてしまった頭は、そう簡単に戻ることはないらしい。
理想の恋愛。
この曲のように、誰かを愛することができたらと。その誰かが、俺を想ってくれる人だったらと……今までそんなふうに思って聴いていた曲は、少しずつ、星を想う俺の本音に変わっていった。
最後のフレーズを聴き終わると、星は真っ直ぐに俺を見る。
「白石さん、最初からちゃんと聴きたいから……もう一回、歌ってほしいです」
まさかの依頼に、俺は笑ってしまった。
「なんつー羞恥プレイをさせんだよ、星……ってか、俺が歌わなくても曲流れてくんだろ」
「白石さん……お願い、歌って……」
大きな瞳を潤ませながらそう言われてしまい、俺は運転しながらもう一度同じ曲を流す。
真剣に、でも適当に。
照れくさくて、真面目になんて、とてもじゃないが歌うことなんてできない。運転に集中しつつ、俺は口ずさむ程度に歌ってやることにした。
後部座にいる悪魔二人が、爆睡していてくれて本当によかったと思う。聴かれてたら、何を言われるか……考えるだけで、ゾッとする。
そんなことを思いつつも、俺は運転しながら静かに歌う。俺の隣で、流れていく外の景色を見つめる星は、いつかのときと同じ表情をしていた。
俺が好きな曲ってだけで、星がいい曲だと思うかどうかは、正直なところ分からない。
そもそも、女相手に歌われている曲だ。
星は男だし、勝手に俺が理想としてるだけだから……ただ、少しでも星に届けばいいと思う。
俺が想う未来は、どれを選んでも星がいること。これから先、俺は星を泣かせることのほうが多くなると思うけれど。それでも、最後には笑って……俺の隣には、お前がいてほしいってこと。
どんなことがあっても、本当の答えを出すのは、二人じゃなければ意味がないというコトを。
「白石さん、この曲……大好き、です」
綺麗な涙を流しながら、恥ずかしそうに笑う星。泣きながら笑うとか、器用なことをするヤツだが……コイツ、そろそろ寝る。
……一曲丸々歌わせやがって、本当に子守唄じゃねぇーかよ。
「そう思ってくれんなら良かった。でもお前、もうとっくに限界越えてんだろ」
「白石さん、好きぃ……」
「ん、おやすみ」
少しでも一緒にいたい……そう思い、わざわざ下道を選んだ自分。運転するのは嫌いじゃないが、夜のライトは少し眩しく感じて溜め息が漏れる。
星は好きだと言ってくれるが、色素の薄い俺の瞳にネオンの光は刺激が強かった。
後ろの二人、そして星も。
みさまご就寝の中で、俺は運転しつつ煙草を咥えた。宿ではあまり吸えなかった分を取り戻すように、車に乗り込んでから喫煙率が上がった気がする。
だが、それも眠気覚ましだと自分自身に言い訳をして。少しだけ、隣で眠る星を羨ましく思いながら、俺は車を走らせた。
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