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第232話

「んで、白石は俺を残して、楽しいゴールデンウィークを過ごしてきたわけだ。イイ痕ついてんね……ゆ、き、や、クン?」 「気持ちわりぃー呼び方すんじゃねぇーよ、殺すぞ」 家から大学、大学からバイト先、そして家へと……ただひたすらに、行ったり来たり往復する日々が始まった。 だが、今日は康介の誕生日だったらしい。 ゴールデンウィークをバイトで費やした康介は、誕生日を一緒に過ごす女が見つからず、俺に奢ってくれと泣きついてきた。 奢りついでに、女が喜びそうな店を教えろ。それがプレゼントでいいから、お願いだから一緒にいて。 バカな康介にそう言われた俺は、家に星がいるわけでもないし、メシを作るのも面倒だからと可哀想な康介クンのために、女が喜びそうなカフェに連れてきてやったのに。 「……白石ぃー、俺こんな洒落たもん食えねぇ」 「洒落たもんって、ただのパスタじゃねぇーか。ペスカトーレ、上に乗ってんのが殻付きのエビなだけだろ」 「俺は、こんなのが出てくるとは思ってなかったんだ。なぁ、これどうやって食うの?」 「お前はガキか?ったく……こうやんの……おら、食え」 食べ方が分からないと言った康介に、俺は溜め息を吐くと、エビの殻を剥いてやって口に放り込んでやる。 「うんめぇーっ!!!」 「騒ぐんじゃねぇーよ、バカ」 モグモグと口を動かしながら、満足そうに微笑む康介。コレを可愛いとか思える女に出逢えるのなら、コイツは幸せになれるのかもしれない。 「白石ぃー、ありがとなぁ……俺、今度から絶対女の子とこの店来るわ」 「連れて来る女がいれば、の話だろ。まぁ、でも、お前が女落とすなら丁度いい店だとは思う。プレゼント、気に入ったか?」 味は良いし、洒落っ気もある、ただし料金はしっかりと見合った額を取られるため、康介が給料日に女を連れてくるとしたら、丁度いい店なのだが。 「おう、満足……じゃねーよっ!!白石、お前に訊きたいことが山ほどあるんだっ!!つってもここじゃさすがにマズイから、もうちょっと付き合ってちょ?」 連れてくる女がいない康介は、女よりも目の前にいる俺を誘ってくるからウザい。 ……どーせ、ヤった話を訊かせろとか言うんだろ、このバカは。 「食い終わったら、芝公行くか。あそこなら叫んでも何しても大丈夫だからな……誕生日だし、今日は特別にタダで教えてやるよ」 「……訊きたいコトの内容、分かってんの?さすが白石、なら話は早い。今日は俺の奢りじゃないし、逆にタダで聞けるんだよな?それなら、俺の気が済むまで付き合ってもらうからっ!ちゃんと話せよ、洗いざらい、全部話せっ!!」 「うるせぇー、とりあえず食え。話はそれから、場所替えてゆっくり話そうじゃねぇーの」 「白石……なんか俺、ドキドキしちゃう」 適当に食事を済ませて、何故かソワソワする康介と一緒に俺は芝の公園へと向かった。

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