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第233話

公園のベンチで煙草を吸っている俺を見下ろして、康介はニヤニヤしている。 「今回はヤっただろ、絶対最後までヤってきたんだろっ?!」 「ヤってきたらナニ、お前に関係ねぇーと思うんだけど」 目の前で仁王立ちし、俺を見下ろす康介がうざったくて。俺は吸った煙を細く長く、康介の顔に目掛けて吐き出してやった。 「あーっ!!目に染みるからやめてくれっ!ちゃんと話してくれるんだろっ?!白石っ、惚れた相手と初めてヤった感想を聞かせろよっ!!」 「感想って、お前バカじゃねぇーの……んなもん、すげぇーイイに決まってんだろーが」 「白石ずるいっ!どーせ、その噛まれた痕だって、愛しの仔猫ちゃんが白石のこと想ってつけたんだろっ?!お前ばっかいい思いしやがってっ!!そこどけっ、俺も座るっ!!」 ……いい思い、か。まぁ、確かにいい思いはしてるな。少なくとも、この男よりかは。 俺の隣に腰掛けて、数分間項垂れていた康介は何かを思い出したかのように、俺に話し掛けてくる。 「……そういやさ、付き合った記念日の話って仔猫ちゃんとは話したのか?」 「あー、してねぇーな。なんかどれもしっくりこねぇーから、まだ話してないまま。付き合った日とか記念日なんて、ヤっちまったらもうどーでもいい」 本当は独りで色々考えたのだが、それでもなかなか答えが出なかった。定まった日を記念日として設けることよりも、今の俺には他にやるべきことがある気がするのに。 「んじゃさ、もうヤった日でいいじゃん。俺が命名してやるよ、仔猫ちゃんと白石の『ドピュッピュ記念日』どう?よくね?」 「お前ナニ言ってんだ、よくねぇーよ。人のこと言う前に、まずはお前がドピュッピュできる相手を見つけやがれ」 俺の隣で笑う男は、本当にバカだった。 「相手がいたら、誕生日をわざわざ白石に泣きついて、ヤった話なんか聞いてねぇっつーの」 「お前って寂しいヤツだな、可哀想にこーすけクン」 「いいなぁ、俺も好きだって思える彼女が欲しい。なんかさ、仔猫ちゃんと一緒にいるようになってからの白石って、また一段と大人びちまった感じがすんだよ……なんつーか、余裕がある上に責任感っつーの?なんか、すげぇ男らしくなった気がする」 一度や二度、惚れた相手と繋がることができたからって、そう簡単に変わるものではないと思うのだが。 俺が本当に男らしくて、責任感があるヤツだったなら……別れ際、惚れた相手にあんな辛そうな笑顔をさせることなんかない。 伝えたい想い、届かない気持ち。 カラダで繋がることができても、それはほんの一瞬で。言葉に表わそうとしても、上手く伝えることのできない自分は、隣でヘラヘラ笑う康介と、さほど変わりないのかもしれない。 本当はまだ、子供な自分。 俺より先に大人になった康介が、少しだけ羨ましく思えた瞬間だった。

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