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第234話

【星side】 会えない時間さえ、愛しいと思えるように。 白石さんが歌ってくれた曲を、プレイリストで毎日聴いて。寂しさを紛らわせながら、今日もオレは学校で、普段通りの日常を終わらせた。 もう2週間ほど、白石さんと会えていない。 本当は。 会おうと思えば、学校帰りにでも白石さんのバイト先に行けば会えるんだけど……何も買う物がないのに、お邪魔しちゃ悪い気がして。 スマホを覗けば、今日も午後からショップにいるよって、白石さんから連絡が来ていた。 どうしよう。 オレ、白石さんに会いたい。 けれど、まずは会いに行くための口実を作らなきゃって。学校から最寄り駅までの道のりを、オレは一人でトボトボと歩いていく。 ゴールデンウィークも終わって、本格的に部活が始まった弘樹とは、最近一緒に帰ることが少なくなってきているから。 弘樹、弘樹、かぁ……って、あ。 来週の月曜日は確か、弘樹の誕生日だった気がする。誕生日プレゼント、なんにも考えてなかったけれど。 でも、弘樹は白石さんがバイトしてるショップのブランドが好きだから……これなら、オレは白石さんに会いに行けるかもしれない。 オレが学校帰りに、一人で白石さんに会いに行ったら。白石さんは、どんな顔をするんだろう。ビックリするかもしれないし、優しく笑ってくれるかもしれない。 もしかしたら、迷惑だって思われちゃうかも……なんて、オレは色んなことを考えながら家とは真逆の方向へと歩みを進めていく。 そして、ガチガチに緊張した身体で。 オレは、白石さんがいるショップの前まで辿り着いていた。 ゆるく制服を着崩して、いかにもスポーツやってますって感じの見知らぬ高校生が、オレの横を通り過ぎてショップの中に入っていく。 ……よし、この人たちの後に続いていこう。 店内に入って、キョロキョロと辺りを見回せば、レジ付近で同じショップの店員さんと何かを相談している白石さんを発見した。 白石さんも、隣にいる店員さんも。 サッカーのユニフォームを着ていて、普段見ている白石さんとは全然違う感じがする。 でも、本当に何を着てもかっこよくて、様になる人だなってオレは思った。 お仕事モードの白石さんは、オレのことに気付いていないみたいだけど。白石さんの姿が見れただけで、オレはとっても嬉しくて、恥ずかしくて。 とりあえず、オレは目の前に並んでいたスポーツタオルを手に取った。 薄手なのにふかふかで、とても触り心地がいいけれど。オレはサッカーのこととか全然分からないし、このタオルを弘樹が使うのかと聞かれたら……オレは、イエスと言える自信がない。 そもそも、オレは毎年やってくる弘樹の誕生日に何をプレゼントしていたんだろうって。タオルを手にして、考え込んでいたオレの背後から。 「いっらっしゃいませ、星くん」 ずっと、会いたかった人の声が聴こえた。

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