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第236話
弘樹へのプレゼントを、オレにつきっきりでじっくりと、時間をかけて選んでくれた白石さんに連れられて。会計を済ませたオレが、名残惜しくショップを立ち去ろうとした時だった。
「星……お前、今日うち泊まってけ」
小さな声でそう言った白石さんの顔を、オレは驚いて二度見してしまう。
今日は金曜日。
明日は学校が休みだから、オレは泊まりでも問題ないと思うけれど。
「白石さんは、大丈夫なんですか?」
白石さんが大学とバイトの往復で、忙しい日々を過ごしているってオレは知ってるから。確かめるようにオレが尋ねると、白石さんはオレの頭をくしゃりと撫でて。
「いいんだよ、このまま連れて帰るから。今のうちに、今日は帰らないって親と光に連絡入れとけ」
「ちょ、えっ?!あの、白石さん?」
「ちゃんとそこで待っとけよ。オレ着替えてくるから、店から出んじゃねぇーぞ。お前に拒否権ねぇーからな」
白石さんはそう言って、STAFF ONLYと書かれた扉の中に消えていく。
相変わらず強引で、なにを考えているのか分からない人だけれど。白石さんと一緒にいれるのは、すっごく嬉しいから。オレは勇気を出して、ショップまで来てよかったって。
そんなことを思いながら、ポツンと突っ立っているオレを、じーっと見つめてくるショップ店員のお兄さんが一人いることに気がついた。
オレが来店したとき、白石さんと話していたスタッフさんだと思うけれど。あまりにも凝視されすぎて、オレは白石さんの言いつけを守らずにショップの外で白石さんを待つことにした。
すっかり薄暗くなった空が、白石さんといた時間の長さを教えてくれる。キラキラと輝くネオンの光が、なんだかとても眩しく感じた。
ショップを出て、母さんにLINEを送っていたオレに、知らない人が声をかけてきて。ふわふわと笑う、感じの良さそうな20代後半くらいのお兄さんだけれど。
「……ねぇ、キミ。カットモデルとか、興味ある?」
「……興味、ないです」
小さく呟いて俯いたオレの前髪を、お兄さんはグッと掴んできて。
「やめっ」
「うっわぁー、キミすごい可愛い顔してるね。俺にキミの髪切らせてくれない?俺、すぐそこのサロンの店員なんだけど、ついて来てくれたらお代はいらないから……ね?」
なんだか少し威圧感がある笑顔に、オレの顔はひきつっていく。
「あのっ……オレ、待ち合わせしてる人がいるのでッ!!」
前髪を押さえているお兄さんの手を振り払い、オレがちゃんとお断りしようと思った、その時だった。
ぐっと掴まれた右腕、オレは思わず持っていたスマホを落としそうになる。力強く掴む手を、振り払いたくてもオレの力じゃビクともしなくて。
このお兄さんは、きっと。
サロンの店員なんかじゃない。
「ついて来て、くれるよね?」
「ッ!!」
オレがそう確信したとき、恐怖で身体が動かなかった。
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