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第237話

「ッ……やっ!!」 掴まれた右腕をグッと引っ張られ、動かなくなった身体が崩れ落ちてしまいそうになる。 恐怖でギュッと、目を瞑った瞬間。 「お兄サン、ショップの前でそういうことすんの、やめてもらえる?営業妨害、そのコ、嫌がってんじゃん」 知らない人のその言葉で、オレの腕を掴んでいた男の人の手が放される。サロン店員だと言っていた人は舌打ちをして、そそくさとその場から立ち去ろうとした。 けれど。 「逃げんな、クソが。殺すぞ」 オレが知らない人だと思っていた人は、さっきまでずっと、オレのことを見ていたショップ店員さんで。その後ろで、私服姿の白石さんが立ち去ろうとした男の人を捕まえて、路地裏まで引きずっていくのが見えた。 何が起こっているのか分からなくてフリーズしているオレに、ショップ店員のお兄さんが優しく笑いかけてくれる。 「キミ、さっきまで白石に接客してもらってたコだろ?俺、アイツと仲良いの。白石があんなに時間かけて接客する姿、初めて見たから気になって。キミのこと、じっと見ちゃってごめんね。でも、なんか困ってるみたいだったから、つい店から出てきちゃった」 こんな格好で恥ずかしいなぁって、ニカっと笑うお兄さん。ユニフォーム姿のまま、お店の外に出てきてくれたんだ。 「あのっ、ありがとうございました」 「どういたしまして。この辺は治安悪いから、ああいう輩が結構いんの。今頃、あの兄ちゃんは白石にボコられてると思うから、もう安心していいよ」 深々と頭を下げて、オレはお礼を伝えたけれど。どう考えても安心できないことを言われて、オレは困惑してしまった。 「キミはさ、白石と知り合いなの?なんか、すげぇ親しげに話してるように見えたから」 「あ、えっと……白石さんは、オレの兄ちゃんの友達、です」 「ああ、なるほど。それなら納得。あ、俺ね。白石の友達っつーか、バイト仲間の浅井康介って言うの」 白石さんと仲がいいらしい浅井さんと話していたら、何事もなかったかのように、白石さんが気怠そうにしてオレのところに戻ってきた。 「ったくお前は、何で店内で待ってねぇーんだよ。こうなるから店ん中で待っとけっつったのに……腕、痛くねぇーか?」 呆れたように、でも心配そうに、オレの頭を撫でてくれる白石さん。 「だってなんか、このお兄さんにずっと見られてるのが恥ずかしくなっちゃって。それでお店の外に出たら、こんなことに……本当に、ごめんなさい」 白石さんの指示を、ちゃんと聞いておけば良かった。そう思って、小さな声でオレが正直に謝ると、白石さんは冷たい瞳で浅井さんを睨みつける。 「……康介、お前も路地裏行くか。今ならまだ、さっきのクソがくたばってんぞ」 「いかねぇっ!!え、俺が悪いのっ?!ちゃんとこのコ助けたじゃんっ!白石っ、お前マジで怖いっ!今度なんか奢るから許してっ!!」

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