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第243話
ブルーベリーの甘い香りで、目が覚める。
ぐちゃぐちゃだったはずのオレの身体も、ベッドも……すべてが、綺麗に元通りになっている部屋の中。
違うのは、オレが着ていた制服のシャツが見当たらないことと、オレが今着ている服が白石さんの物だってことだけれど。
ベッドに腰掛けて煙草を吸う白石さんが、なぜか申し訳なさそうな表情で、オレの頭を撫でてくれる。
「ごめんな、さすがに負担かけすぎた。俺の都合で、お前のこと酷い抱き方して……カラダ辛いだろ、悪かった」
カラダは確かに辛いけど、ほしいと強請ってしまったのはオレの方なのに。どうして白石さんがこんなに辛そうな顔をして、オレに謝るんだろう。
「大丈夫じゃないけど……大丈夫、です。白石さんとひとつになれて、オレはとっても嬉しいから」
カラダも、心も。
オレは、白石さんだけのものだから。
少しでも、オレのこの気持ちが白石さんに届きますように。
「白石さん、オレ……きっと、どんな白石さんでも受け入れちゃうと思うんです。うまく言えないけど……オレは、白石さんが大好きです」
「星……」
「だから、そんな顔しないでください。オレは白石さんにこんなにたくさん愛してもらえて、幸せです」
オレは白石さんを見て、にっこりと微笑んだ。そんなオレを白石さんは、力強く抱きしめてくれる。
「星、愛してる。俺も、お前に愛されて幸せ」
幸せを感じて欲を満たしたオレの身体は、素直に次の欲へと手を伸ばして合図する。グーっと鳴ったお腹の音に、オレは急に恥ずかしくなって顔を赤らめ呟いた。
「……お腹、空きました」
「メシ食う前にヤって、そのまま寝ちまったから、腹減るのは当然だ……夕飯、もうできてるけど食うか?」
白石さんのその言葉が嬉しすぎて、思わず頬が緩む。久しぶりに白石さんの手料理を堪能できるなんて、オレは本当に幸せ者だなって思った。
オレが起きた時間が遅かったから、夕飯は深夜になってしまったけれど。白石さんと二人で摂る食事は、やっぱりすごく美味しかった。
そうして、白石さんの腕の中で眠りについた翌日。白石さんのバイト仲間の浅井さんのことや、弘樹の誕生日プレゼントの渡し方とか……オレと白石さんは、二人でくだらない会話を楽しんで。
毎日こんなふうに過ごせるなら、どれだけいいだろうって。少しだけ、寂しさが襲ってきたけれど。言葉にしてしまったら泣き出してしまいそうで、オレは自分の気持ちに気づかないフリをする。
だけど、白石さんはそんなオレの気持ちに気づいてたみたいで。優しくオレを抱き寄せて、泣いていいよって白石さんが言ってくれたから。
心の中の寂しさが、流れ落ちていくように。
涙が枯れてなくなるまで、オレは白石さんの腕の中で泣いていた。
大好きな匂いに包まれながら、時間の許すギリギリまで。
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