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第245話
思っていたのと、違う。
オレが予想していた展開と、全然違う。
白石さんからのプレゼントを受け取ったはずの弘樹は、立ち止まったまま動かなくなった。せっかく白石さんと二人で話し合って、オレが伝言係を引き受けたのに。
こんなことなら、オレを挟まずに白石さんから連絡してもらえばよかったって……オレの気持ちが苛立ちから落ち込みへと移り変わったとき、弘樹はボソッと呟いて。
「マジか……」
「え、なに弘樹?」
片手で口元を押さえて呟いた弘樹の声が聞こえなくて、オレは弘樹に問い掛けた。
「ああ、ごめん……分かるよ、大丈夫。プレゼントすごい気に入った、セイありがと。白石さんには、俺から後で連絡入れとくな」
弘樹はニカっと微笑んで、何だかとても嬉しそうにしている。どうやら言付けの意味も弘樹は理解したみたいで、オレはホッとした。
「弘樹が気に入ってくれたなら、よかった。今日は学校だけど、良い誕生日になるといいね」
早く学校へ行かないと、さすがに遅刻しちゃうかもって。そう思ったオレは、弘樹より先に駅に向かって歩き出す。
でも。
「セイ、ちょっと待って」
立ち止まったままの弘樹は、オレの腕を掴んで歩みを遮った。
「なに、弘樹。早くしないと遅刻しちゃう」
腕を掴まれ動きが止まってしまったオレは、振り返って弘樹を見るけれど。
「……セイ、これは俺からの感謝の気持ち」
「感謝の気持ち?ありがとうって言ってくれれば、オレはそれでいいんだけど」
そう言ったオレの頬に、チュッと落とされた一瞬のキス。
「っ?!」
突然の出来事で目を丸くしたオレに、弘樹はニィと嬉しそうに笑って。
「知ってる?俺の誕生日、5月23日ってキスの日なんだって。先輩がLINEしてきてさ、頬にするキスは親愛、満足感って意味があるらしい。セイがくれたプレゼントに俺、とっても満足したからさ、このキスに親しみと愛情を込めてみた!」
満面の笑みで、そう言われましても。
親友からの親しみと愛情が込められたキスなんて、オレはいらないから。
「……キスの日かなんだか知らないけど、感謝なら言葉で伝えてよ。ホントに弘樹って意味分かんない、もうオレ、先に学校行くから」
ちゃんとプレゼントを渡して、白石さんからの言葉も伝えて。弘樹にとって、良い誕生日になるといいなって本気で思っていたのに……弘樹は、人の善意をなんだと思っているんだろう。
「あ、おい……セイ、待って!!」
オレは人の心が分からない親友を放置し、スタスタと一人で歩いていく。けれど、すぐに弘樹が追いかけてきて。
結局、二人並んで歩くことになるオレと弘樹。ポンポンとオレの頭を撫でながら、いつもよりずっと上機嫌な弘樹とは対照的に、オレは膨れっ面で歩いていく。
「セイ。俺、まだちゃんとおめでとうって言われてないんだけど」
今度あんなことしたら、二度と言ってやんないんだから……少しだけ、そんな思いを言葉に込めて。
「弘樹、お誕生日おめでとうっ!!」
オレは弘樹を見上げて、お祝いの言葉を贈ったんだ。
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