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第246話
【雪夜side】
会いに来てくれたことが、嬉しかったはずだった。弘樹の誕生日プレゼントを買いに来たと、わざわざ別の理由をつけてまで俺に会いに来てくれたのだから。
真っ赤になりながらも俺を見つめて微笑む星は、本当に可愛くて。
帰したくないと思ったし、離したくないと思った俺は、やたらと時間をかけてバイトが終わるまでの時間を使い、星に弘樹へのプレゼントを選ばせた。
もちろん、星をそのまま家に連れ帰るつもりで、だ。帰ったら、会えなかった日の分まで優しく抱いてやるつもりだったのに。
あろうことか、星は康介のせいで変な輩に絡まれていた。二度と俺の前に面出すなと、クソ野郎は散々殴ってきたけれど。
収まらない苛立ちが、色々な感情が混ざり合って……俺はあの日、泣きじゃくる星を抱いていた。
抵抗できないことを分かっていて、俺は自分の欲を星に押し付けた。それでも俺に縋って、何度も何度も名前を呼んで……俺がほしいと、好きだと言ってくれた星。
申し訳なく思った俺に、俺の全てを受け入れられるから、そんな顔しないでと。俺に愛されて幸せだと、星は可愛い笑顔で微笑んでくれた。
なんとも情けない姿を見せてしまった気がするが、それでもこんな俺を愛してくれる、たった一人の愛しい人。
正直、かなり反省はしているけれど。
ヤっちまったコトはどうにもならないし、むしろ、理性飛ばすほど善がっていた淫乱ボーイに煽られたのは俺の方だと思いたい。
感情に任せ、悪戯を仕掛けたのは俺だが……最終的に、俺に縋りたくてあんなに泣かれるなんて、誰も予想できねぇーだろ。
それに、帰り際は違う意味で泣かれてしまい、俺はもうたじたじもいいところだったが。
隠そうとしている寂しさが、切なそうな笑顔から伝わってきて。俺の前で我慢なんてしなくていいと。無理して笑わなくていいから、泣いていいと……離れるギリギリまで、俺は泣き続ける星を抱きしめていた。
恥ずかしがり屋で、照れ屋な星。
けれど、俺には真っ直ぐに好きだと気持ちを伝えてくれる。
泣き虫なところも、意外と芯が強いところも。クッソ可愛くて、すげぇーエロいところも。
……本当、星には敵わない。
あの日。
星がどれだけ俺を想ってくれているのか、痛いほどよく分かったから。俺は、このまま情けない男でいられないと。
そんなことを思いながら、約束の時間まで。
俺は、今日も今日とてバイトに明け暮れた。
怠いと思いつつも、それなりに仕事をし、流れる時間をフラフラと漂っていく。そうして、バイト終わりの脱力した身体で、俺は欠伸をした。
大きく吸い込んだ酸素がカラダ中を巡り、スタッフルームからのんびりと抜け出して。ジャケットのポッケに両手を突っ込んだ俺は、そのまま店を後にしようとするけれど。
「……お疲れッス」
ショップを出た俺に声を掛けてきたのは、俺に直接会って話がしたいと、今日の朝、そう連絡をしてきた弘樹だった。
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