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第247話
「待たせて悪かったな、弘樹」
「いえ、俺のほうこそ、時間とってもらっちゃってスミマセン」
水曜日、平日の夜にわざわざ私服に着替えてまで、俺に会いに来た弘樹は深々とお辞儀をする。とりあえず俺は弘樹を連れて、康介御用達のファミレスに入った。
席に座り、適当に注文をして。
煙草を咥えた俺に、弘樹は礼を言ってきた。
「あの、プレゼントありがとうございました」
「……あぁ、気に入ったか?あれ、本当はどっちも星が選んだやつだから」
色々と悩みに悩んだ星は、スマホのケースと薄手生地のタオルマフラーを、弘樹へのプレゼントに選んでいた。どちらか一つに絞り込むことができずに悩んでいた星に、一つは俺からと言って渡してやれと話をしたのだ。
「そうだったんッスね。でも、クイズは?」
そのまま渡すだけじゃ面白味がないからと、クイズを出して弘樹が正解できたら、俺からの伝言を伝えてやってほしい。
そう、星に伝えて。
本当に弘樹が欲しがっているであろう人を、俺は1日限定で誕生日プレゼントとして弘樹に贈ってやった。
きっと星は、未だにあの伝言がなにを意味していたのか、さっぱり分かっていないだろうけれど。
「セイが意味わかんないこと言ってたけど、白石さんから『あの条件』を取り消してやるって伝えてほしいって言われたって……俺、セイにキスしちゃいましたけど。本当に、良かったんッスか?」
……良かったも、ナニも。
良くねぇーって俺が言ったところで、今更どうにもなんねぇーだろーが。
「お前、それ訊くためにわざわざ話に来たのか。頬にキスくらいなら誕プレとしてくれてやるよ、幼稚園児でもそんくらいすんだろ」
そう言ってぼーっと煙草を吸う俺を、弘樹はまじまじと見ると不思議そうな顔をする。
「白石さん、なんでそんなに余裕あるんッスか?俺がキス以上のことを、セイにしてたかもしれないんッスよ?」
バカか、コイツは。
余裕なんてもんが、俺にあるわけがない。そもそも、本当に余裕があるヤツは、1日限定と期限を設けるようなことはしない。
「お前から触れていいって言ったところで、お前はもうすでに星が誰のモンか分かってんだろ。だから、キス以上のコトをしなかった……いや、できなかった、ちげぇーの?」
「それは……そうッス、けど」
俺は煙草の火を消して、アイスコーヒーを口にする。ドリンクバーの機械から流れ落ちたコーヒーの味はあまり得意ではないが、こればかりは致し方ない。
とりあえず、口に合わない味のアイスコーヒーを流し込み、俺は俯く弘樹に釘を刺す。
「星は俺のモノ。お前にも、誰にも渡さねぇーから心配すんな」
「……分かってるッス」
弘樹はグラスの中の小さな氷の粒をカラカラとストローで回しながら、何か思い詰めたような顔をして黙り込んでいた。
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