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第248話

長い沈黙のあと、弘樹がボソリと呟いた。 「……俺、正直めっちゃ辛いッス」 「だろーな」 コイツに辛い思いさせてんのは、間違いなくこの俺だ。 「誕生日に、久しぶりにセイに触れて。俺、やっぱセイのこと大好きだって実感した。でも、それと同時に白石さんには敵わないんだって思い知らされた感じがして……叶わない恋なら、俺はセイから距離おいたほうがいいのかなって」 幼馴染みに淡い恋心を抱く、高校生になったばかりの弘樹に現実を突きつける俺は、大人げないのだろう。 「弘樹、星はお前を友達以上には思ってねぇーよ。わりぃーけど、それはこれからも変わらねぇーと思う」 「でも俺っ、まだセイが好きッス。諦めることなんかできない。でもこんな気持ちのままで、俺は友達って言えんのかなって……」 「前にも言ったけど、星の友達としての一番はお前にやる。お前は星をダチだとは思ってねぇーのか、お前の好きは下心だけなのか?恋愛感情がなくなっちまったら、お前は星を見捨てんの?」 「そんなっ!!セイは、俺の大事な親友ッスっ!!!」 弘樹の大声に、周りの客が一斉に俺たちを見る。 「声、でけぇーよ」 「……スミマセン」 余程恥ずかしかったのか、弘樹は俺に謝るとテーブルに額をつけて顔を隠し、情けねぇと小さく呟いた。 「星は渡さねぇーけど。俺はお前のこと、嫌いじゃねぇーから。星のことを想ってくれて、ありがとな」 一生懸命な弘樹の姿を見ていると、何故だか背中を押してやりたくなる。 「正直、片想いの辛さって俺にはわかんねぇーんだ。ただ、星のことでお前独りで抱え込めないことがあんなら、今日みたいに連絡くれりゃ付き合ってやるよ」 ……他のヤツに、こんな話されても困るしな。 項垂れていた弘樹は、真っ直ぐに俺を見る。 「白石さん、俺やっぱり白石さんも好きッス。尊敬してますっ!!」 「いや、お前に好かれてもな……まぁ、でも。時間かかっても構わねぇーから、お前の好きなように足掻いてみろ。星にフラれたからって、大事な親友には変わりねぇーんだろ?」 「それはもちろんッス。なんか、ありがとうございますっ!!」 はにかむように笑う弘樹は、俺の中で弟のような存在になってきているのかもしれない。 星の大事な友達だから。 星が弘樹の想いに気づいて、悩むことがあっても。星はちゃんと今まで通り、親友の関係を保とうとするに違いない。 星のことを、ずっと見てきた弘樹だから。 この先、俺ができないやり方で、友達として星を支えてやることができるのは、きっと弘樹だ。 というより、俺はいつからこんなに人情深いヤツになったのだろう。星のことになると、必死すぎて余裕がない。 ……あー、なんかもう面倒くせぇーな。 「お前は当たって砕けちまえ」 気づいたら俺は煙草を咥えて、弘樹に対しそんな発言をしていたのだった。

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