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第249話

弘樹と話をした日から、1週間が過ぎていた。 星は朝から今日も一日頑張ってくださいとか、可愛い内容のLINEを送ってくれる。弘樹からはもう少し頑張ってみますと、なんとも前向きな内容のラインが毎日のように送られてくるのだが。 ……俺はお前のダチじゃねぇーぞ、弘樹。 「あ、ユキちゃんっ!」 心の中でそう呟いたバイト終わりの俺を、呼び止めたのは光だ。 「わりぃー、待ったか?」 「ううん、今来たところだよ。とりあえずどっかで飲みながら話そっか。あ、でもユキちゃん車?」 「いや、今日はお前がそう言うだろうと思って電車」 少し、付き合ってほしい。 そう俺から光に連絡を入れたため、必然的に飲みに行くのは決まっている。ついでに、俺の奢りになることも。 「さすがユキちゃん!じゃあユキちゃんについていくから、イイお店、連れてってね?」 光はにっこり微笑むと、俺の左腕に絡みついて腕を組む。恥ずかし気もなく、よくもまぁこんなことができるもんだ。 「光、離れろ。そこは星の場所」 「えーっ?!ユキちゃん、せいはいいのに俺はダメなの?俺、せいのお兄さんだよ?」 強請るように俺を上目遣いで見つめる光は、星と似ても似つかないほど妖しい笑みを浮かべていた。 「当たり前だろ、兄貴だろーと関係ねぇーよ。つーか、男同士で腕組んで歩いてたら目立つだろーが」 「ユキちゃんかっこいいから、普段から充分目立ってること知らないの?」 「普段から、そんな俺よりも目立つのはお前だ、光。てか、こんなコトして優はなんも言わねぇーの?」 「優はいいの、俺が何処でナニしてようとなにも言わない、言わせない。それに、最近忙しくして会えてないし……ユキちゃんはすっかりせいにお熱だし。可愛がる相手がいなくて、俺は結構寂しいんだよ?」 うーっと眉間に皺を寄せて、ぎゅっと俺の腕を掴んで離れようとしない光に、俺は苛立ちを隠せない。 「寂しいって……お前に構いたいヤツなんか腐るほどいんだろーが、とりあえず離れろ、クソ王子」 「仕方ないなぁ」 そう呟きながら光はそっと俺から離れ、ひょいっと前へ出ると、俺に向き合い立ち止まる。光を纏う空気が一瞬にして変わり、切れ長の瞳が刺すように俺を捕らえた。 「……ユキ、お前。今誰に向かってクソって言った?今度ユキがせいに会うとき、首筋のキスマが増えてないよう祈っとけよ。口の利き方、気をつけないと。俺、せいになにするかわかんないから……ね?」 声色の違うその言葉に舌打ちした俺を見て、金髪の悪魔がニヤリと笑う。 「ったく……申し訳ございませんでした、王子様」 「分かれば宜しい。やっぱりからかうならユキだよ。いつもどーでもいいって感じのクセして、せいのことになると苛立つその感じ……うん、堪んないよね」 うっとりとした表情で妖しく笑う悪魔を連れて、俺は地下にあるバルへと向かった。

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