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第250話

相変わらず、酒が似合うヤツだ。 ワイングラスを傾けて満足そうに微笑む光は、いつも通りの妖艶さを振り撒いている。 ……本当、黙ってたらすげぇーキレイないい男なのに。 食事を楽しみつつ、俺は光に伝えたかったことを告げた。今、俺が一番気にかけている星と弘樹のことを。 「……ふーん、そういうこと。そっかぁ、ひぃ君も大きくなったんだねぇ。淡い恋心、このワインにぴったり」 ピンク色のロゼワインを飲みながら、光はしみじみと俺の話を聞いていた。 「でもユキちゃん、随分とひぃ君のこと気にかけてるね。せいの友達だから?恋敵だから?それとも、また別の理由?」 「いや、弘樹を恋敵とは思ってねぇーよ。まぁ、星のダチってのが一番だけど……なんか、アイツ犬みたいで面白いし。星が大切にしてる関係を、俺もできるだけ大事にしてやりてぇーんだよ。特に弘樹は、俺が原因で関係を拗らせることになるからな」 光は俺の言葉にピタリと動きを止めて、幸せそうに微笑み俺を見る。 「人に興味なかったユキちゃんから、そんな言葉が聞ける日がくるなんて………これはきっと、せいくんマジックだねっ!」 ……なんだよ、せいくんマジックって。 俺がそう光につっこむ前に、光の空気感が変わった。コロコロと態度を変化させる光だが、その瞳が儚く揺れる様子は光の言葉に重さを持たせていく。 「ひぃ君はね、せいのことを小さい頃からずっと守ってきてくれてるの。せいもひぃ君のこと、なんだかんだでとっても大事にしてるよ。俺から見ればひぃ君の気持ちなんて、わかりやすいと思うんだけど。せいは天然モノだから、ひぃ君は辛いだろうね」 俺、正直めっちゃ辛いッス。 そう俺に洩らした弘樹の顔が、頭に浮かぶ。 とても真剣に、弘樹へのプレゼントを選んでいた星の可愛らしい笑顔も。 「弘樹は俺が知らない星を知ってる。そんでもってお前は、俺が知らない二人を知ってる……だから光、そんなお前に頼みがあんだけど」 俺が、光に連絡を入れた理由。 俺の情けなさを認めて、子供じみた独占欲を振り払って、ほんの少しのプライドを捨てて。 「この先……弘樹のことも含めて、もし星が一人で泣く日があったら、そのときはわりぃーけど、俺の代わりに星のことを慰めてやってほしい」 これが、今の俺にできる精一杯の愛し方。 少しでも、星が毎日笑っていられるように。 「ユキ……」 俺が毎日、星と過ごせるわけじゃない。 俺が支えてやれるのなら、それが一番望ましい。でも、現実はそうも甘くない。 あの日のように。 泣き続ける星を、アイツの真っ直ぐな気持ちを……今の俺は、ただ受け止めてやることしかできない。 星と出逢うまで。 人を愛したことのなかった俺は、人の愛し方を知らない俺は、頼れる人間を頼らざるを得ないから。 友人として、俺を見てきた金髪の悪魔に。 兄として、星を支えてやることができる光に。 精一杯の誠意を込めた、俺からの頼みごとだった。

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