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第251話
「頼まれて、くれるか?」
俺が尋ねた相手の表情は、普段と変わりないままで。この悪魔の返答次第で、俺の誠意が試される気がした。
店内に流れる柔らかいBGMを聴きながら、俺は光からの返事を待つ。
そして。
「もちろん。せいのことも、ユキのことも、いつもからかってばかりだけど、俺は大事に想ってるから……ユキ、せいを大事に、大切に、想ってくれてありがとう」
キラキラ輝く王子様。
星が好きだと言っていた、兄として優しく笑う光の顔が俺の前にあった。
「せいはきっと、もうユキじゃないとダメだと思うけど。俺はできる範囲でせいのお兄さんとして、これからもせいを支えていくつもり」
「お前がダチで、星の兄貴で良かったわ」
真剣なときだけ出てくる呼び方は、こういったときにありがたく感じる。言葉の使い分けが上手い男に感謝した俺は、なんだかんだ言ってもコイツはいいヤツだ……と、珍しくそう思ったのだが。
「ねぇ、ユキちゃん?慰めるってことはさ……俺も、せいにあーんなコトやこーんなコトをしても許されるってコト?」
金髪悪魔降臨、か。
さっきの真剣な表情は、どこに行ったんだ。
「ちげぇーよ、星を抱いていいのは俺だけ。カラダの慰めなんて、絶対すんじゃねぇーぞ」
「ウソウソ、冗談。ちゃんと分かってるよ」
ケラケラと笑いながら、楽しそうに微笑む光。嘘でも冗談でもなく、普通に手を出しそうな悪魔を前にして俺は溜め息を吐いた。
……こりゃ完全に頼る相手間違えてんな、俺。
「お前はもう王子じゃねぇー、悪魔だ、悪魔」
「えー、王子だよ?こんなに優しい王子様なんて、いないんだから。恋に悩むユキちゃんに、ちゃーんと付き合ってあげてるんだからね?」
「別に、悩み相談した覚えはねぇーんだけど」
そう呟き、煙草を吸おうとジッポを手に取った俺を見て、光はワイングラスを傾けながら話し掛けてくる。
「ユキちゃんさ、なんか男らしくなったね。今のユキちゃんになら俺、抱かれてもイイなって思う」
「お前、そんな気更々ねぇーだろーが。それに、俺はもう星以外抱かねぇーよ」
またアホなことを言い出した、と。
俺は光の言葉に呆れつつ、煙草を咥えて火を点けていく。
「んー、やっぱりバレてた?」
「バレるもナニも、お前には優がいんだろ」
こんな頭のおかしい光を相手にできるヤツは、光と同等か、それ以上に頭のおかしい優しかいないだろう。
「まぁーねぇ……ユキちゃんに抱かれてもイイなんて、これっぽっちも思ってないけど。でもそれくらい、今のユキちゃんは魅力的」
「そりゃ、どーも」
付き合ってほしいと頼んだのは俺のはずだったが。真剣な話をして、目的を果たした俺は結局、終電の時間まで光に遊ばれ続けた。
駅で光と別れ、電車に揺られて家に帰れば。
今日もまた、誰もいない静まり返った真っ暗な部屋だけが俺を迎えてくれた。
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