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第254話
「お仕置きって……星、お前俺にナニするつもりだよ?」
普通こういうときのお仕置きってのは、大抵エッチなお仕置きをしてくれると相場は決まっているのだが。
「ナニって、とりあえず明日1日禁煙してください」
「……ハァッ?!!」
俺の予想を飛び越えたお仕置きの内容に、俺は思わず声を荒げてしまった。だが、星は至って冷静だ。
「オレが白石さんのモノなら、白石さんはオレのモノのはずです。オレの指示、聞けますよね。明日1日一本でも吸うことがあれば、オレはもう白石さんの抱き枕になってあげませんから」
まさかの、禁煙命令発動。
お仕置きを通りすぎ、これはもはや拷問だ。
「……星、それマジ?」
「嘘ついてどうするんですか、オレもそれなりに怒ることはあるんですよ。煙草をとるか、オレをとるかです。簡単でしょ?」
薄笑いを浮かべながら、そう言って首を傾げる星。仔猫を怒らせると、容赦ないことは学べたけれども……俺は溜め息を吐き、星の膝からベッドへと移動する。
喫煙者にしか分からない苦行、吸えない苛立ちをどう処理するかが悩ましい。隠れて吸ってもバレるだろうし、かと言って星にイラつくのも違うことくらい理解はしている。
さて、どうするか。
そんなことを思いながら、ベッドに寝転んだ俺の上に、星はゆっくり跨ってきて。
「あ、あともう一つ。白石さんにはわからないでしょうけど、嫉妬って過去の人間にだってするんです。今日はもう遠慮なくいきますので、覚悟してください」
そう言いながら、星の唇が俺の鎖骨に触れたかと思ったそのとき、だった。
「……いッ!!」
遠慮なく……その言葉通り、星は俺の鎖骨に噛みついてきた。星の歯がグッとくい込み、カラダ中に痛みが走る。けれど、俺の思わず出た声と表情に星は満足そうに微笑んでいた。
首筋、鎖骨、俺のシャツをめくりあげて、カラダ中に噛みついていく星。お仕置きって、本当に今日のはマジで痛い。
それでも、俺の反応を見ながらカプッと噛みつく星の頭をそっと撫でてやる。すると、鋭かったはずの視線から、星の瞳は少しずつ潤み始めて。
「過去の女性にも、こんなに優しくしたんですか?オレと同じような抱き方……意地悪で、すっごく優しいの、シたんですか?」
悲しそうな表情で、俺を見つめる星は小さく呟いた。けれど、星の問いのような事実はなく、俺が意地悪で優しい人間になれるのは星のみだから。
「星、ごめんって。過去の女でお前みたいに抱いたヤツなんて一人もいねぇーよ。前にも言ったけど、自分から触れたのは星だけだ。俺の初めては、お前だけ」
……禁煙を命じられたのも、星が初めてだ。
「でもっ、なんか納得できないです」
「なら、お前の気が済むまで、好きなだけ俺のこと傷つけりゃいい」
お仕置きという理由をつけて嫉妬で俺に噛みついく星を眺めつつ、俺は痛みに耐えていく。
禁煙は地獄だが、星からの言いつけなら仕方ない。
……可愛い星くんのお仕置きを、大人しく受けてやろうじゃねぇーか。
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