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第263話

「おはよ、セイ」 朝の挨拶を交わして、はにかんでくれる弘樹。 今日の弘樹は俺が知っている、幼馴染みの弘樹だった。 昨日、兄ちゃんにも白石さんにも支えてもらって。色々なことを知ったオレは、複雑な気持ちを抱えたままだけど……それでも、弘樹が笑ってくれるから。 上手く笑えているか分からないけれど、親友として変わらない態度で接しようって、オレは決めたんだ。 「今日も蒸し暑いね、弘樹夏服に替えたの?」 毎日の部活で、すっかり日に焼けている弘樹の肌に、真っ白なシャツが眩しく感じる。 「今、移行期間中だろ?ジャケット着てるのなんか、暑くて耐えられない」 「オレも、そろそろ夏服に替えようかな」 「セイはたぶん、スクールベスト着たほうが似合う。俺は暑いから、あんなもん着ないけど」 夏服には白のシャツに学校指定のベストがあるけれど、男女共に着用は自由。緩く結ばれネクタイですら、弘樹はこんなもんいらないと言って暑がっていた。 「今からそんなに暑がってたら、夏本番になったとき、弘樹は干からびてるね」 「セイは昔から、暑さに強いよな。見た目は日に当たったら、溶けそうなくらい白いのに」 「弘樹みたいに動き回らないから、それにオレそんなに外出しないし」 いつも通りの生活。 朝は弘樹と学校へ行って、授業を受けて。 皆んなそれぞれ、好きなように過ごすお昼休み。オレは、西野君と話していた。 「昨日の放課後、横島先生とすっごいたくさん話してきたんだ。横島先生、やっぱり授業してなくてもかっこよかった」 顔を赤らめながらそう話す西野君は、横島先生のことが好きだったりするのかもしれない……なんて。一瞬、思ってしまったけれど。 「僕も、横島先生みたいな料理人になりたい」 西野君のその言葉に、オレの思い違いなんだなって少し恥ずかしくなった。 そう簡単に、男が男を好きになることなんかないから。白石さんも、オレも、ついでに弘樹も、きっと頭がおかしいんだ。 そんなことを考えていたオレに、西野君は小声で話す。 「前から、ずっと気になってるんだけど……青月くんって、彼女いるの?」 「へ?」 突然訊かれた質問に、とっても間抜けが声が出てしまった。 「コックコートや、体操着に着替えるときにね。たまに青月くんの首筋と鎖骨の辺りに、キスマークがついてるの見えるときがあるから、そうなのかなって」 白石さんは、いつも制服で隠れるギリギリのラインで痕を付けてくる。そのほうがエロいからって、意味のわからないことを言っていたけれど。  でも、白石さんは男の人だし。 彼女ではないから……オレ、なんて答えればいいんだろう。 「……付き合ってる人は、いるよ」 そう答えたオレに、西野君はやっぱりそうなんだって、小さな声で呟くと唇を噛んで俯いてしまった。

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