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第264話

「青月くんって、モテるんだね」 俯いたまま、小さく呟く西野君。 「え、モテないよ。オレ人見知りだし……オレなんか全然、昔からモテてるのは弘樹だよ」 幼稚園のころから、バレンタインのチョコレートを毎年必ずもらっている弘樹。本人はどう思っているのか知らないけれど、女の子たちから人気があるのは確かだと思う。このあいだだって、女の子に囲まれていたし。 「ああ、弘樹くんはすごいモテそう。でも青月くんも、僕から見たらかっこいいと思うけど」 「あ、ありがと」 かっこいいなんて言われ慣れてないオレは、どんな顔をしていいのかわからない。すごい嬉しいのに、かっこいいって言葉で頭に浮かんだのは白石さんだったから。 「青月くんの彼女って、どんな人?」 くりっとした可愛らしい目で、オレを見つめる西野君。 どんな人って……そもそも、彼女じゃないんだけれど。むしろ、彼女っぽいのはオレの方……なんて、一瞬でも思ったりした自分が恥ずかしい。 「えっと……オレより料理上手で、笑顔が素敵な人、かな」 白石さんは、男の人だけれど。 料理上手だし、ふわりと笑う白石さんの笑顔はとても素敵だから。 「ふーん、そっかー。その彼女とは付き合って、どれくらい経つの?」 どれくらい、なんだろう。 というより、付き合った日とかよくわかんないや。お互いにちゃんと告白したわけじゃないし、でも初めて会った日にキスされてるし。 いつから、好きって思うようになっていたのかもわからない。オレと白石さんが付き合った日って、いつなんだろう。 「んー……よくわかんないけど、2ヶ月くらい?」 「そっかー、青月くんと彼女さんはラブラブなんだ」 西野君は机に頬杖をつきながら、羨ましいって微笑んでいる。西野君がラブラブって言うと、なんだかすごく可愛らしいけど。 「ラブラブなんて、そんなことない」 「えー、ラブラブだよ。そうじゃなきゃ、青月くんの身体にキスマークなんてついてないと思う……青月くんの彼女はきっと、とっても独占欲が強い人なんだね」 恥ずかしすぎて、何も言えなかった。 確かに俺のモノだってよく言われるし、カラダに教えるとも言われたし、なんならそのときだってこの制服で。 あのときのコトを思い出して、オレの身体が熱を持つ。何事もなかったように、綺麗になった制服を着ているけれど。 あのときの白石さん、すごく意地悪だった。 でも、優しくない鋭い視線も、ゾクっとして甘かったことを、オレの身体はちゃんと覚えている。 ……明日から、夏服に替えよう。 「青月くん顔真っ赤だよ、大丈夫?」 本当は、色々と大丈夫じゃないんだけど。 そんなこと、口が裂けても西野君には言えないから。 「大丈夫」 オレが小さくそう呟いたとき、予鈴が大きく鳴り響いた。

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