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第265話

制服の移行期間も終わって、完全に夏服に切り替わったある日の放課後。 オレは、弘樹と下校していた。 今日は部活サボっちったって、サッカーには真面目な弘樹が珍しくそんなことを言ってきて。 「セイ、今日お前ん家寄ってっていい?」 「うん、いいよ。部屋、あんまり綺麗じゃないけど」 弘樹が学校帰りにそのままうちに遊びに来ることは、中学のときもよくあったから。オレは何も気にせず、弘樹を部屋に入れたけれど。 「どこがきれいじゃないんだよ?相変わらず、きれいにしてんじゃん」 弘樹はオレのベッドにドサッと座り、胡座をかいて寛いでいる。 「そう?物が少ないだけだよ」 オレはそう言って弘樹に背を向けると、ベストを脱いでネクタイを外して、シャツのボタンに手をかけた。 「なぁ、セイ。あの人と、白石さんと……何処までヤッた?」 脱ごうとしていたシャツはそのままに、弘樹の言葉に驚いたオレはビックリして振り返る。 「へっ?!弘樹、何言ってるのっ?!」 「週末、あの人ん家に泊まりなんだろ?男同士っつったって、色々とヤろうと思えばできんじゃん」 弘樹は両腕を組みながら、オレを真っ直ぐに見つめると、そう言って首を傾げるけれど。 「そんなっ、何にもしてない」 こんなの、恥ずかしすぎる。 どこまで、なんて答えられるワケがない。急激に上がっていく体温とともに、オレの顔は真っ赤になっていく。 「セイ、顔真っ赤……可愛い」 「……ッ」 可愛くなんてないって、言ってやりたいのに。 恥ずかしすぎて、言葉がでない。唇を噛みしめたオレを見て、弘樹はニィと笑って目を細めた。 「そんな顔するってことは、少なからずあの人と、そういうコトしてるってこと?」 「弘樹っ、やめて……」 「大丈夫だって。あの人とセイの関係を知ったところで、誰かに話したりしないし。あの人がセイの好きな人、なんだろ?」 ……もう、弘樹ってば。うちに来るなり、恥ずかしいことばっかり言ってくるんだから。 「ご想像に、お任せしますっ!!」 恥ずかしくてそう言ったオレの言葉に、今度は弘樹が唇を噛み俯いてしまう。少しの沈黙のあと、小さなため息とともに弘樹が呟いた。 「セイが、誰かに抱かれる姿なんか……俺、想像したくねぇよ」 そんなふうに思うなら、最初から聞かなきゃいいのに。オレだって、こんな恥ずかしい思いしたくない。 「……なら、なんで聞いたの」 「ごめん、セイの可愛い表情が見たくて。あの人のこと考えて頬を染めるセイの表情が、一番可愛くて、きれいだから」 可愛くもないし、綺麗でもないんだけど。 「でも俺は、それが腹立たしくて……そんなふうに思う自分が情けなくって、すごく……悔しい」 苦しそうな表情でベッドから下りた弘樹は、突っ立ったままのオレの手にそっと触れてくる。 「……あの、弘樹?」 なんとなく振り払うことができずにいたオレに、弘樹は何かを決心したかのような表情で、オレを見つめて微笑んだ。

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