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第266話
「セイ、これで最後にするから。俺の告白、ちゃんと受け取ってほしい」
「え、ひろ……っ?!」
手を引かれて、力強く抱きしめられる。
突然のことで驚いていたオレに、弘樹はそっと呟いてきて。
「最後だから、もうこんなことしないから……今だけは、俺の腕の中にいて」
いつもより、ずっと近くにいる弘樹。
オレを抱きしめて、切なそうな小さな声で囁かれた言葉。
「……セイ、ずっとずっと好きだった」
「ひろ、き……」
「この前は返事聞くって言ったけど、言わなくていい、分かってるから。ただ、受け取って……今こうしていてくれるだけで、俺は、幸せ」
……嘘だよ、そんなの嘘だよ。
幸せに思っているのなら笑って、そんな苦しそうな顔しないで。
ごめんね、弘樹。
弘樹の気持ちに、オレは応えてあげられなくて。声にならない思いが、涙となって零れ落ちる。
「セイ、俺のためになんか泣くなよ……セイが泣くことなんてないんだから……ほら、可愛い笑顔俺に見せてよ」
「でもっ……」
「昔から変わらないな……そうやって、自分のことよりも人を大切に想えるセイが、俺は大好き。でもやっぱり、俺はあの人には敵わないって、分かったから」
俺を強く抱き締めていた弘樹の腕でから、少しずつ力が抜けていく。
「あの人すげぇよ。セイのこと、諦めなくていいって俺に言ってくれてさ……俺がセイにもう一度だけ告白するって言ったとき……あの人さ、俺になんて言ったと思う?」
……全然わかんない、白石さんは弘樹になんて言ったんだろう。
「……わかん、ない」
そう言ったオレに、弘樹は知りたいって訊いてきた。コクリと頷いたオレに、弘樹は少しだけはにかむとその答えを教えてくれた。
「お前が星に惚れてる分も含めて、俺が星を愛していくから……だからお前は、安心してフラれて来いって……カッコいいよな、すげぇ余裕って感じで、マジで憧れる」
白石さんに憧れるって、そう言った弘樹の顔はやっぱりどこか苦しそうで。
「だから……俺の男としての好きって想いは、あの人に託すことにする。まだ上手く切り替えできないし、今年のセイの誕生日はおめでとうって、直接言えないかもしれない。でもちゃんとセイの親友だって、胸張って言えるような幼馴染みになるから……」
「弘樹……」
「少し距離おくけど、俺の気持ちに整理がついたら……一番の親友として、セイにはまた、俺の隣で笑ってほしい」
「……うん」
「セイ、ありがと。これ以上は何もしないから……もう少しだけ、このままでいさせて」
オレの肩に頭を乗せて、そう呟いた弘樹。
どれくらいのあいだ、オレが弘樹の腕の中にいたのかはわからないけれど。でも弘樹は、真剣に真っ直ぐに思いを伝えてくれたから。
オレはただじっとして、弘樹と笑い合える日がきますようにと心の中で祈っていた。
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