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第269話
「俺、なんでも耐えてみますっ!だから犯してください!!」
俺に深く頭を下げたまま、犯してくださいと叫ぶ弘樹。
暗がりの公園に、誰もいないからいいものの。こんな異様な光景を他人に見られたら、コイツはどうするつもりなんだろうか。
というよりも、この状況を呑み込めていないのは俺のほうで。
「ちょっと待て、何がどうなったらそうなんだ?」
そう尋ねた俺に、弘樹は僅かに顔を上げる。
だが、弘樹と俺の視線が重なることはなく、ばつの悪そうな弘樹の態度に、俺は内心動揺しているけれど。
「俺、約束やぶって俺から星に触れちゃったんッスよ……あの条件、守れなかったら俺を犯すって、白石さん前にそう言ってたから」
……ん、俺そんなコト言った覚えねぇーぞ。
記憶の紐を手繰りよせ、過去を振り返ること数秒間……ファミレスで最初に弘樹と話した日、そのときは俺がお前を犯してやるとか、なんとか、言った記憶が蘇ってきて。
俺の余裕のなさと、情けなさに苦笑いが漏れるのを煙草で隠しつつ、俺は弘樹に問い掛ける。
「犯す前にとりあえず、お前が星にナニしたのかを教えてくんねぇーか?」
犯す気は更々ないが、コイツが星にナニを仕出かしてその考えに至ったのか、俺は知る必要があるのだが。
「あの、抱きしめちゃいました」
小さな声でそう言った弘樹は、うな垂れるようにその場にしゃがみ込んだ。弘樹の返答に、俺が安堵したことは言うまでもない。だがしかし、念のために確認しておかなければ。
「それ以上は?」
「なにもしてないです……心配ならセイに訊いてみてください、本当スミマセンっ!」
土下座でもしそうなほど、俺に頭を下げる弘樹。バカ正直なこの男が、星の親友で本当に良かったと思う。
自暴自棄になり無理矢理ヤりました、とか。俺がガチで焦るレベルで、弘樹は星に手を出したわけじゃないらしい。
犯すより、瀕死に追い込まなければならない状況にならずに済んで一安心、と言いたいところだが。
「ったく……ビビらせるようなコトすんじゃねぇーよ。お前のコト犯したりしねぇーから、とりあえず頭上げてベンチに座れ」
「いや、でもっ!」
「座れ」
「ハイ……」
少し低い声で言ってやって、ようやく弘樹はベンチに腰掛けた。本当に犯される覚悟で俺に会いに来たのだと、弘樹の姿勢から痛いくらいに読み取れて。
優しい言葉なんて思いつかない俺は、ただ煙草を咥えて思ったことを弘樹に伝えていく。
「……星を抱きしめたことは、フラれた想い出として心にしまっとけ。俺は、聞かなかったコトにしといてやっから」
「でも、それじゃあ約束がッ」
「お前、そんなに俺に犯されてぇーのか?」
俺の問いに、俯いて大きく首を横に振る弘樹。
そりゃ、そうだ。
誰が好きな相手抱いてる男に、犯されたいなんて思うヤツがいんだよ。
「弘樹、俺が抱くのは星だけだ」
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