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第270話
……なんか、すげぇー疲れた。
あのあと、弘樹は俺に告白の内容を詳しく話し始めて。大人しく隣で聞いてやっていたら、帰る時間がすっかり遅くなってしまった。
家まで送ってやろうかと尋ねた俺に、電車で帰ると言って聞かなかった弘樹は、無事に家に着いたのだろうか。
弘樹と別れて家に帰ってきた俺は、とりあえずシャワーを浴びて汗を流し、ベッドへとダイブした。
何やってんだと思いつつ、星がいつも抱いている、ぬいぐるみのステラを抱きしめてみる。確かにふわふわしていて気持ちはいいが、俺が抱きたい相手はコイツじゃない。
煙草を咥える気にもなれずに、ただ真っ直ぐに俺を見つめるステラを抱いて、星のことを思っていた。
もう日付は変わってしまったし、アイツは今頃夢の中だろう。一度寝たらなかなか起きない星の就寝時刻は、おおよそ22時半から23時前後。
基本的に、星は深夜に縁のない生活リズムで過ごしているため、俺は今日、星の声を聴くことすら叶わなかったというのに。
……弘樹のヤツ、俺の星を抱きしめやがって。
なんて、今頃になって溢れてきた嫉妬心と、己のガキさに呆れてしまった。ぬいぐるみを抱き、イジける自分が気持ち悪く感じた俺は、寝返りを打ち体勢を変える。
すると、テーブルの上にいる紙袋が目に入った。置いてあるのは、弘樹からの預かり物だ。
星が誕生日を迎える日までに、気持ちの整理はつきそうにない。だからせめて、プレゼントだけでも渡してほしいと……弘樹から預かった、星への誕生日プレゼント。
この中身は、なんなのだろう。
きっと、俺より弘樹の方が星のことをよく知っているんだろうと思うと、少しだけ悔しい気がして溜め息が漏れた。
星の誕生日は七夕、今年は平日。
来月に上手く休みが取れるように調整して今月のシフトを組んだこともあり、ここ最近はバイトばかりしているが。
光も康介の誕生日も、本人に言われるまで俺は気付きもしなかった。今まで付き合った女の誕生日どころか、自分の誕生日ですら、産まれた日なんて祝ったところでどーすんだと、今までそんなふうにさえ感じていたのに。
星が産まれてきてくれた日には、素直に感謝できそうだ。アイツは、どれだけ俺の心を癒やしていくのだろう。
冷めたフリをしていたつもりはないが、本当にただ他人に興味がなかった俺を、こんなにも容易く夢中にさせた星。
ただ、俺はアイツが欲しがっている物を全く知らないままだ。星本人に訊くのも違う気がするし、詮索を入れるのも気が引ける。
他人の誕生日を惰性でしか祝ったことのない俺は、プレゼントの選び方さえよく理解していなくて。
俺から星に贈りたい物ならあるのだが、本当にそれでいいのか迷いは消えないまま。
色々と、ベッドに転がりながら考えていた俺だったが。バイトで疲れ切った俺のカラダは、いつの間にか眠りへと誘われていった。
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