271 / 570

第271話

今日も一日、無事にバイトを終えて。 帰宅しようとしていた俺は、おバカな康介クンに呼び止められた。 「白石ぃー、寂しいから俺と一緒に飲まねぇ?」 相変わらず、独り寂しい夜を過ごしている康介。俺じゃなく、女に声を掛ければいいと思うのに。 「俺、飲んだら運転できねぇーよ。それにお前、飲みに行く金なんかねぇーだろーが」 そう言ってやれば、諦めるかと思ったが。 「ない、だから宅飲み。俺ん家来てよ、そしたら酒は家にあるし、泊まりなら車でも大丈夫じゃん?」 今日の康介は、随分と寂しいらしい。 他人の家に上がり込むのは極力控えたいところだが、引く気がない康介にこのままウザ絡みされるのも怠い。 「なぁ、いいじゃんかぁー。平日は仔猫ちゃんとこ行かねぇんだろ?なら、俺に付き合って」 確かに、星には会わないけれど。 だからといって、康介に付き合う理由にはならない。そう思いつつ、今日の俺は康介の誘いにのってしまった。 けれど。 「……部屋、汚すぎ」 康介の家に着くなり、あまりの部屋の汚さに俺は呆れ返った。仕方なく、まずは自分の座る場所を確保するためソファー周りだけ片付けていくが。 「白石、お前どんだけ綺麗好きなんだ?」 「そういう問題じゃねぇーよ、脱いだ服を洗濯カゴ放り込むくらいガキでもできんだろ」 俺はそう言いながらソファーに散らばった服を摘まむようにして拾いあげ、康介に投げつけた。 「洗濯カゴなんて、うちにねぇもん」 「なら洗濯機に放り込め、とりあえず飲む前に部屋を片付けろ」 「白石って、母ちゃんみてぇ」 ブツブツ言う康介と二人で、部屋の片付けを済ませて。ある程度キレイに片付いた康介の部屋で、俺はやっと寛ぐことができた。 ソファーに座って煙草を咥えた俺に、康介が缶ビールを手渡してくる。渡されたビールを開けて、お互いに「お疲れ」とひと言交わすと、俺は冷えたビールを流し込んだ。 「俺、最近さ……やっと白石が言ってたこと、分かった気がすんだよね。女の子大好きだけど……面倒くせぇ、金掛かるし」 寂しいからと俺を誘ったのは、女の愚痴を言うためだったのか。それにしても、合コンで金使って金欠のコイツはやっぱりバカだと思う。 「それはお前が、合コンばっか行くからだろ?」 「合コンだけじゃねぇ……メシ食い行って、くだらない話聞いて、可愛い笑顔見せてもらって、ヤるコトヤらずにさようならってのが、俺の何時ものパターンだ」 「お前はさ、ヤりてぇーだけなのか?」 「そういうわけじゃねぇけど……白石は、仔猫ちゃんとどうなのよ?てか白石さ、仔猫ちゃんからなんて呼ばれてんの?仔猫ちゃん年下だろ?雪夜さんとか?」 床に座って胡座をかき、ソファーに凭れながらそう言って俺を見上げる康介。 呼ばれ方なんて、特に気にしてなかったが。 星はいつも、白石さんだな……俺、アイツに名前呼ばれたこと、一度もねぇーじゃん。

ともだちにシェアしよう!