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第272話
「あー、白石さん……だな」
そう答えた俺に、康介は少し驚いて持っていた缶ビールをテーブルに置くと、なぜか嬉しそうに笑う。
「まさかの苗字呼びかよ、俺と一緒じゃん」
「バカ、お前と一緒にすんじゃねぇーよ」
「一緒だろぉ?さんついてねぇだけじゃん、白石さん?」
「やめろ」
今日の康介は、いつにも増してうっとおしい。
「えー、いいじゃんかよぉ……ん?てことは、ヤるときも白石さんなワケ?」
星に呼ばれる分には構わないし、敬称の意として捉えることができるのだが。康介のさん付けは、敬意よりも馬鹿にされているようで不快だ。
ただ、俺はもう返事をするのも面倒で。
無言で頷いた俺を見て、康介は独り不愉快な妄想を繰り広げ始めた。
「あ、んっ、ゆきやぁ、とかじゃねぇんだなぁ……ってか、お前の名前なんかエロくね?抱いてもらえそうな感じ?なぁ、雪夜?」
「下の名前で呼ぶんじゃねぇーよ、クソが。康介、お前随分と俺のことなめてくれんじゃねぇーか」
「だってしらっ、雪夜からかうと面白いからさぁ、ねぇ、雪夜……抱いて?」
……気持ち悪りぃー声出してんじゃねぇーよ。てか、抱いてってアホじゃねぇーの。
まぁ、でも。
いい機会だし、少しだけコイツに灸を据えてやろう。俺のコトからかおうなんざ100年はぇーよ、康介。
そう思いながら、手に持った缶ビールをゆっくりとテーブルに置き、わざと口元を緩めて笑ってやる。ソファーに凭れて俺を見上げて笑っている康介の手首を掴むと、俺は康介をそのままラグの上に押し倒した。
「え……あ、白石?」
思いの外、抵抗するそ振りがない康介の耳元で俺は低く囁いてやる。
「そんなに俺に抱かれたいなら、抱いてやるよ」
「ちょっ?はぁ?!冗談キツいってッ!!」
囁かれた言葉に、ナニをされるのか理解した康介の顔は引きつっていく。そんな康介の表情を見て、吹き出しそうになるのを堪えながら、俺は康介の髪を片手で掴み、威圧感を与えるように康介を睨みつけた。
「うるせぇー変態。どうせ声出すんなら、もっとイイ声で啼け」
「ッ……白石っ?!お前、マジでやめろよっ!」
髪を掴んでいる手にぐっと力を入れてやれば、康介は俺を見上げて大人しくなる。
「そんなビビっちゃって……怖い?俺とヤんの」
怯える康介の耳元で囁きながら、わざと康介の股の間に膝をねじ込み、脚を開くように促していく。
「ハァ?!そういう問題じゃねぇっ!」
自分の部屋、しかも俺と二人きり。
誰も助けなんてこねぇーもんなぁ、調子乗っから痛い目みんだよ、バーカ。
「大丈夫だって、うんと優しく抱いてやっから」
そう言いながら笑いを堪えるのに必死な俺は、きっと怪しい笑みを浮かべているに違いない。
「白石っ、マジで……無理だってッ!」
無理と言いつつ大人しく俺に押し倒されたままの康介は、俺を受け入れるかのように徐々に脚を開いていった。
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