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第273話

「もうっ、お前なんで今日に限ってそんな酔い回るのはぇんだよぉ……」 テーブルの上に置かれた缶ビールに視線を逸らして、康介は力なくそう言った。 「いや、俺がこの量で酔うワケねぇーだろ。マジで抱いてヤんだ、そのまま大人しくしとけ」 「白石ぃ……ヤバいって、無理だってッ」 微かに震え始める、康介の声。 これが愛しの星くんだったなら、どれだけよかったか。 「……ったく、そんなに怖ぇなら選択肢やるよ。優しくされんのと、無理矢理奪われんの……どっちがいい?」 ……泣き出しそうな康介の眼を見つめながら、選択肢をあげる俺ってすっげぇー優しいヤツ。 「それなら、まだ優しい方が……って、白石ちげぇよっ!」 「なら無理矢理奪われろ……ほら、ケツ出せや変態」 康介クンは、無理矢理ヤられるのがお好みなワケか……ってか俺、これ以上ヤるつもり全くねぇーんだけど。なんでコイツはこんな大人しく、俺に抱かれようとしてんだ。もうビビり過ぎて、動けねぇー的な感じか。 とりあえず康介を更にビビらせるため、俺は康介が穿いているジーンズのベルトを外していく。 そんな俺の行動に泣き出す寸前の康介の顔が、面白くて仕方ない。 「白石ッ!!本当にッ……やめっ……」 あー、ダメだ。 これ以上は俺の腹が崩壊する。 これだけビビらせておけば、充分だろう。 「くっ、ハハッ……」 今まで堪えていた分の笑いが、一気に押し寄せてくる。俺はポカーンとする康介から離れて、腹を抱えて爆笑した。 「……しら、いし?」 「康介、お前マジウケるっ!腹いてぇーっ!!」 俺が爆笑している姿を見て、本気じゃないことに気が付いた康介は顔を真っ赤にして吠えてくる。 「ッ……白石のバカっ!!俺の後ろのチェリー、マジで奪われるかと思ったじゃんかっ!!」 涙目になって怯えていた康介が可笑しくて、俺の腹筋は崩壊しそうだ。こんなに笑ったのは、久しぶりかもしない。 「なんだよ、後ろのチェリーって?!あー、面白れぇーっ!!」 「お前がケツ出せとか言うからだろっ?!!」 だからって、後ろのチェリーとか言える康介はやっぱりすげぇーバカだ。 「お前本当バカだな、なんでマジで動揺してんだよ?」 徐々に笑いがおさまってきた俺は、康介にそう聞きながら煙草を咥えて火を点ける。煙草を吸う姿が好きだと言ってくれた星のことが、なぜだか恋しくて堪らなくなった。けれど、俺の目の前いるのは残念ながら康介で。 「こんなことされたら、誰だって動揺すんだろっ?!お前怖過ぎっ!てかエロ過ぎっ!!」 さっきまで俺にビビりまくってた康介は安心したのか、騒ぎながらも残りのビールを一気に飲み干していた。 「俺が野郎なんて抱くワケねぇーだろ、すっげぇー気持ちわりぃー。泣きそうな顔して、意外に襲われるのも悪くねぇーとか思った?」

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