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第275話

「わりぃー、無理だ。その日は仔猫の誕生日」 星の誕生日と被らなければ、確実に参加すると答えてやっているのだが。大事な星の誕生日にボールを蹴っていられるほど、今の俺にはもうサッカーに意欲がない。 「マジかよぉ、ならしょうがねぇかぁ……」 「また機会があれば誘ってくれ、サークル以外ならできるだけ参加してやっから」 「おう。でも計算ミスったわぁ……白石がいれば確実に一万ゲットできると思ってたのに。お前のボールタッチの上手さと、テクニックがあれば無敵なのによぉっ!!」 「最初から俺を頼ってどーすんだ、康介。お前が頑張りゃいいだけの話じゃねぇーか、俺がいたって別に大したコトしねぇーし」 「んなことねぇって。俺と違って、頭の回転すげぇ早いし。攻守の切り替えも、正確な判断もできる。体格にも恵まれてるし、トップスピードもすげぇ速い……白石って、なんでプロになってねぇのか不思議なくらいサッカー上手いじゃん?」 そうは言っても、人並み以上ってだけだ。 結局プロになれてない時点で、いくら上手くても意味がない。並々ならぬ努力をして、どれだけ上手くなったとしても。 プロになれる人間なんて、ほんのひとにぎりで。サッカーの神様に選ばれた人間のみが、その舞台に立てる世界。 俺はとうの昔から、神様に見放されてんだ。 幼い頃に抱いた夢は、夢のままで……充分だから。 「褒めても、なんも出てこねぇーぞ」 残りのビールを飲み干して、床に転がる康介に俺はそう言ってやる。てっきり何かくれと言われるかと思った俺に、康介は酷く真面目な顔をして言った。 「なんもいらねぇよ、俺はガチで褒めてんの」 ……褒められたところで、今更プロになれるわけでもねぇーんだけど。 「そりゃ、どーも」 とりあえず、素っ気ない返事を返して。 バイト続きで、それなりに疲れが溜まるカラダを無理に起こしている気にもなれず、ダラダラと床に転がる康介のように、俺もソファーに転がった。 「白石って、女の誕生日祝ったことあんの?」 俺が女に上部だけの付き合いしかしないことを知っている康介は、だらけ切った声でそう俺に聞いてくる。 「あるワケねぇーだろ、そんなもん。俺、おめでとうとすら言ったことねぇーよ」 「だよなぁ……女の名前も誕生日も覚えたことのない野郎が、仔猫ちゃんの誕生日を覚えてることに驚きだ」 「まぁ、初めて惚れた相手だからな。アイツと出逢えたコトは、奇跡みたいもんだし」 お互い話しながら、ただぼーっと天井を見つめて。俺は、愛しい星のことを想っていた。 「仔猫ちゃんって、本当すげぇのな。白石がそんなに夢中になる女ってすげぇよ、一度でいいからお目にかかりたいもんだぜ」 女じゃねぇーし、康介はすでに星と会ってんだけど……お前が助けた、あの可愛らしい男の子が仔猫だ。 なんて、口が裂けても言えねぇーわ。

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