277 / 570
第277話
「せい、ちょっと休憩しよっか」
兄ちゃんはそう言うと、オレの肩を揉んでくれる。オレはシャーペンを持つ手を止めて、心地よい気持ち良さに身を任せた。
「……ひぃ君とは、あの後どう?」
弘樹に告白されたあの日。
家から出ていく弘樹と、兄ちゃんはたまたますれ違っていたみたいで。弘樹の告白を受けたあと、オレを慰めてくれたのは兄ちゃんだった。
「距離をおきたいって話のまま、まだ顔は……見てない、かな」
「ひぃ君も、今頃テスト勉強でもしてるのかもね。あ、でもひぃ君バカだから勉強できないか」
「兄ちゃん、言いすぎ。確かに弘樹は勉強しないけど、さすがにテストのときくらいはするよ?」
中学のころは、よく一緒に弘樹とテスト勉強したっけ。テスト勉強というより、弘樹は貯め込み過ぎた課題をやっていくのに精一杯だったけれど。
「そっか……それじゃあ、ユキちゃんとは最近どうなの?」
「白石さんとは、オレに会いに来てくれた日以来会ってないよ。白石さん忙しそうだし、オレもテスト控えてるし……お互いに、今は会わない方がいいかなって」
そう思う気持ちは、嘘じゃない。
ただ、寂しくて会いたいなって思うだけで。
「せいはさ、俺より大人だね。ユキちゃんなら会いたいって言えば、この前みたいにすぐ飛んで来るのに」
兄ちゃんはオレにそう言いながら、トントンと軽く肩を叩いてくれる。
「大人じゃないよ……寂しいし、すぐ会いたくなっちゃうもん。でもね、お互いにやることはやんないとダメだから」
前に白石さんがそう言っていたから、大人なのはオレじゃなくて白石さんの方。
お互いを思いすぎるあまり、うつつを抜かしていたら……織姫と彦星のように、本当に会えなくなってしまうかもしれないから。
「それじゃあ、せいの誕生日はどうするの?」
兄ちゃんにそう聞かれて。
オレは自分の誕生日を、白石さんに教えていない事実に気がついた。
「オレ、自分で自分の誕生日すっかり忘れてたから……白石さんにオレの誕生日、教えてないや。オレも白石さんの誕生日、いつか知らないし」
「ウソ、そうなの?」
「うん……それに、オレの誕生日はテスト期間中だから。白石さんも忙しそうだし、今度会えたときにでも、ちょっと大人になったよって報告しようかな」
……わざわざ自分から、この日が誕生日ですって言うのも変だしね。
「そっか、せいがそれでいいならいいんだけど……じゃあ、ラスト金曜日の科目は、今のうちにちゃんと勉強しておくようにね?」
「うん、今うちからどの科目もちゃんとテスト対策するように頑張るよ」
よくわかんないけれど、とりあえず勉強しなさいってことかな。兄ちゃん、肩揉みまでしてくれたし。
「少しはリラックス出来た?」
「うん、ありがとう。テスト頑張るね」
そう言ったオレに兄ちゃんは優しい笑顔で微笑むと、オレの部屋を後にした。
ともだちにシェアしよう!