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第277話

「せい、ちょっと休憩しよっか」 兄ちゃんはそう言うと、オレの肩を揉んでくれる。オレはシャーペンを持つ手を止めて、心地よい気持ち良さに身を任せた。 「……ひぃ君とは、あの後どう?」 弘樹に告白されたあの日。 家から出ていく弘樹と、兄ちゃんはたまたますれ違っていたみたいで。弘樹の告白を受けたあと、オレを慰めてくれたのは兄ちゃんだった。 「距離をおきたいって話のまま、まだ顔は……見てない、かな」 「ひぃ君も、今頃テスト勉強でもしてるのかもね。あ、でもひぃ君バカだから勉強できないか」 「兄ちゃん、言いすぎ。確かに弘樹は勉強しないけど、さすがにテストのときくらいはするよ?」 中学のころは、よく一緒に弘樹とテスト勉強したっけ。テスト勉強というより、弘樹は貯め込み過ぎた課題をやっていくのに精一杯だったけれど。 「そっか……それじゃあ、ユキちゃんとは最近どうなの?」 「白石さんとは、オレに会いに来てくれた日以来会ってないよ。白石さん忙しそうだし、オレもテスト控えてるし……お互いに、今は会わない方がいいかなって」 そう思う気持ちは、嘘じゃない。 ただ、寂しくて会いたいなって思うだけで。 「せいはさ、俺より大人だね。ユキちゃんなら会いたいって言えば、この前みたいにすぐ飛んで来るのに」 兄ちゃんはオレにそう言いながら、トントンと軽く肩を叩いてくれる。 「大人じゃないよ……寂しいし、すぐ会いたくなっちゃうもん。でもね、お互いにやることはやんないとダメだから」 前に白石さんがそう言っていたから、大人なのはオレじゃなくて白石さんの方。 お互いを思いすぎるあまり、うつつを抜かしていたら……織姫と彦星のように、本当に会えなくなってしまうかもしれないから。 「それじゃあ、せいの誕生日はどうするの?」 兄ちゃんにそう聞かれて。 オレは自分の誕生日を、白石さんに教えていない事実に気がついた。 「オレ、自分で自分の誕生日すっかり忘れてたから……白石さんにオレの誕生日、教えてないや。オレも白石さんの誕生日、いつか知らないし」 「ウソ、そうなの?」 「うん……それに、オレの誕生日はテスト期間中だから。白石さんも忙しそうだし、今度会えたときにでも、ちょっと大人になったよって報告しようかな」 ……わざわざ自分から、この日が誕生日ですって言うのも変だしね。 「そっか、せいがそれでいいならいいんだけど……じゃあ、ラスト金曜日の科目は、今のうちにちゃんと勉強しておくようにね?」 「うん、今うちからどの科目もちゃんとテスト対策するように頑張るよ」 よくわかんないけれど、とりあえず勉強しなさいってことかな。兄ちゃん、肩揉みまでしてくれたし。 「少しはリラックス出来た?」 「うん、ありがとう。テスト頑張るね」 そう言ったオレに兄ちゃんは優しい笑顔で微笑むと、オレの部屋を後にした。

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