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第278話

「青月くん、午後から一緒に勉強しない?」 午前中のテストが終わって、家に帰ろうとしていたオレを西野君が呼び止めた。 「うん、いいよ。どこでする?」 一人でテスト勉強するのも、集中力切れてきちゃうし。たまには、西野君と一緒に勉強するのも悪くないかも。 そう思い、オレは西野君の提案に乗った。 「駅前のカラオケボックス、学生証出せば3時間でドリンクバー付いて500円。どうかな?」 どうって聞かれても、料金についてはよくわかんないけれど。基本、弘樹と勉強するときは、お互いの家だったから……とりあえず、西野君にお任せしよう。 「うん、わかった。オレ西野君についてくね」 目的地の場所が分からないオレは、西野君の後を追うように駅前のカラオケ店まで向かった。 「……西野君、よくここ来るの?」 入り口で学生証の提示と、先に料金を支払って。ドリンクバーの場所を教えてもらい、ジュースを注いで……西野君はとても慣れた感じで部屋の明るさや、エアコンの温度調整をしていく。 「うん、来るよ。歌うことはしないけどね。ここの部屋、全室カメラ付いてないからシたいコトできるし」 そう言った西野君の顔は、いつもよりずっと大人びて見える。 「なんか、すごいね。オレ一人じゃこんな場所、入ることすらできないや」 駅前で遊ぶことはほとんどないし、そもそもオレそんなに外出ないし。 「青月くん、インドア派?」 「うん、基本外出しないかな。人が多い場所とか苦手だから、家の方が落ち着く」 「そうなんだ。僕は結構外出るの好き……というか、家にいるのが嫌い」 だから、ここでよく勉強しているのかな。 西野君ってオレと同じで、大人しそうな感じするけど意外とそうでもないのかも。 オレはそんなことを思いながら、ヘアピンで前髪を留める。集中したいし、学校にいるわけじゃないから、当たり前のように前髪を上げたオレを見て、西野君は不思議そうな顔をする。 「青月くんってさ、前髪伸ばしてる理由とかあるの?」 「んー、理由は特にないんだけど。なんか顔見られるの嫌でね……邪魔なんだけど、落ち着くから」 本当は、大きな目がコンプレックスだからなんだけど、落ち着くのは事実だから。 「そっかー、青月くん綺麗な顔してるのに勿体無い。でも青月くんのその姿見れるのは、ちょっとラッキーかも」 そう言って、ふふっと笑った西野君。 オレより西野君の方が、よっぽど可愛い顔してると思う。 お互いがテストに向けて、テーブルにテキストとノートを広げながらカリカリとペンの音が部屋に響いていく。 時々二人で話をしながら、勉強して。 たまにはオレも、こういう場所で勉強するのもいいかなって思ったけれど。 隣で真剣な顔をして勉強している西野君を見て、オレもちゃんと集中しようとシャーペンを握り直したんだ。

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