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第279話
「あー、駄目だぁ……集中切れてきた。青月くん、ちょっと休憩しよ?」
「うん、そうだね。オレも疲れてきちゃった」
うーんと伸びをして、西野君は溜め息を吐く。
中学のころとは違い、基礎の五教科七科目だけでなく、専門分野の知識を詰め込まなきゃならない勉強は、地味に体力を費やすから。
スマホで時間を確認したら、勉強し始めて2時間が過ぎていた。今日もバイトでだりぃーって、白石さんから送られてきたLINEがオレの心をほっこりさせる。バイト頑張ってくださいと、白石さんに返事をして。
勉強をして疲れたせいか、個室の安心感からか。いつになくぼーっとしながら、オレはオレンジジュースで喉を潤していく。
「テスト終わったらすぐ夏休みだし、追試にはなりたくないから今頑張って勉強するけど……暗記ばっかで頭禿げそう。テストなんて面倒くさいこと、なくなっちゃえばいいのに」
西野君はそう言いながら、クルクルとペンを回す。オレは白石さんと連絡を取り合いつつ、西野君の話を聞いていた。
「青月くんは彼女とどうなの、交際は順調?」
LINEのやり取りは毎日しているけれど、順調なのかどうかは会えてないし、正直よくわからない。
「オレはテストあるし、向こうはバイト続きだから……お互い忙しくて、ここ最近は会ってないかな。でも、毎日連絡は取ってるよ」
「そっかぁ……忙しいって言って、もしかしたら彼女は今頃浮気してたりするかもよ?青月くんはそういうの、疑ったりしないの?」
西野君のその言葉が、オレを急に不快にさせる。白石さんを疑たことなんて、オレは一度もないんだけれど……そんなふうに言われると、なんだか切なくなってしまう。
それじゃなくたって、会えなくて寂しい思いを我慢して、毎日頑張って勉強しているのに。
大っぴらに言えるような関係じゃないけれど、オレが白石さんを好きなように、白石さんはオレのコト、愛してるって言ってくれるもん……なんて、西野君には言えないから。
「オレは、信じてるから……疑わない。あの人は、そんなコトしない」
いくら会えない日が続いても、白石さんはオレだけの白石さんだから。浮気なんてしないって、オレは信じてる。
「青月くんが、そう思うならいいんだけど。いくら好きって言われても、僕は相手を信じなられないかなぁ……人を信用し過ぎると、イイコトなんて何もないしね」
今日の西野君はいつもと違い過ぎていて、棘のある言葉についていけない。裏の顔を知ってしまった気がして、可愛らしい外見とは違い過ぎる内面に動揺してしまう。
色んな人がいて、色んな考え方があるから西野君の意見を否定するつもりはないけれど。
「残り時間も少ないし、そろそろちゃんと勉強しよっか」
なんだか、これ以上話す気にはなれなくて。
オレは西野君にそう言うと、テキストと睨めっこしながら再度テスト勉強に集中した。
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