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第280話

テスト続きの毎日だけど、今日はオレの誕生日です。 一番乗りで、誕生日おめでとうと、オレに連絡をくれたのは、あの日から顔を見ることがない弘樹だった。直接言えなくてごめんと付け加えられた、お祝いの言葉。 来年は、直接言ってくれるかな……って、そんなことを思いながら、ありがとうって弘樹にLINEを送り返して。 朝、学校に行く前のオレに、母さんも父さんもおめでとうと言ってくれた。寝起きでぼーっとしていた兄ちゃんも、ぎゅっとオレを抱きしめてくれる。 「せい、お誕生日おめでとうっ!」 「ありがとう、兄ちゃん」 「今日はテストが終わったら、俺に連絡くれる?誕生日だし、たまには俺とデートでもしよっか」 オレにそう言ってくれた兄ちゃんは、少し寝癖のついた金髪を弄りながらふふっと笑う。兄ちゃんとデートって……オレ、女の子じゃないんだけど。 「デートって、兄弟で出掛けるだけでしょ」 「いいの、とりあえず連絡して」 いつもと違う、少し低い声で言われた言葉。 その声に顔を上げれば、兄ちゃんの切れ長の瞳が妖しく揺れていた。この顔は……オレは、ちゃんと兄ちゃんの言うことを聞いておいたほうがよさそうだ。 「……わかった。学校終わったら、連絡するね」 オレの返事に満足そうに笑った兄ちゃんは、欠伸をしながらオレに手を振っていた。 いつも通りに学校へ行って、テストを受けて。 誕生日だからって特別な日じゃなくてもいいやって、オレは自分自身に言い聞かせた。 テストが終わって学校から出る途中で、兄ちゃんに言われた通りに連絡を入れる。 「終わったけど、オレどこに行けばいいの?」 デートって言ってたから、駅まで向かえばいいのか、それとも一旦家に帰ったほうがいいのか……そんな二択を考えながら、兄ちゃんの返事を待っていたけれど。 『学校裏の公園で待ってるから、そこまで来れる?』 予想外の場所を指定され、オレは正面玄関から裏門へと方向を変える。 「……うん、わかった。今からそっち、向かうね」 オレの返答を確認した兄ちゃんは、すぐに通話を終了させてしまったけれど。暑い中、わざわざ学校付近まで来てくれた兄ちゃんを待たせないように。 そう思って外に出て顔を上げると、すっかり高くなった青空が広がっていた。焼けつくような夏の日射しに、この天気なら今日は天の川も綺麗に見えるかなって。 そんなことを思いつつ、オレは学校裏の小さな公園まで向かったんだけれど……公園の横に駐っている見慣れた車を見つけて、オレの心臓が飛び跳ねた。 ……ウソ、なんで。 急いでいた足が、ピタリと止まる。 高鳴っていく心臓の鼓動、身体の奥に感じる熱はきっと、この暑い日射しのせいだけじゃない。 結ばれた髪、煙草を咥えているその姿。 待っていたのは、兄ちゃんじゃないけれど。 オレは高まる感情を抑え切れずに、白石さんの元まで走り寄っていった。

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