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第281話

「星、久しぶり。テストお疲れさん」 そう言って、オレの頭を撫でてくれる白石さん。久しぶりの温もりに頬が緩んでしまうけれど、一体、何がどうなっているんだろう。 「え……あ、えっと……」 突然過ぎて、なんて言ったらいいか分からないオレに。 「暑くて死にそうだから、とりあえず車乗って」 白石さんは煙草の火を消すと、苦笑いでそう言った。とりあえず車に乗ったはいいけれど、やっぱり兄ちゃんの姿はなくて。 「あの……兄ちゃんは?オレ、兄ちゃんと約束してたと思うんですけど」 そう聞いたオレに、白石さんは車のエアコンをガンガンに効かせて、涼しげな顔で答えてくれる。 「ああ、光なら来ねぇーよ。今頃は、優と遊んでんじゃねぇーか」 「へ?でも、兄ちゃんとさっき話したばっかですよ?」 「それは、お前をココまで来させるためな。朝のデートの約束、あれは光とじゃなくて俺とすんの。ん……コレ、光から」 そう言って白石さんがオレに見せてくれたのは、兄ちゃんから白石さんへと送られたLINE。そこに書かれてたいた内容は、兄ちゃんからのささやかなサプライズだった。 せいが一番望んでいる時間をあげるね。 ユキちゃんとのデート、楽しんでおいで。 ずっと欲しかった、白石さんと二人の時間。 「どうしよう……オレ、とっても嬉しいっ!」 「そりゃ良かった。とりあえず今からランの店行くから、食いたいモン考えとけよ?」 白石さんはそう言うと、車を走らせる。 運転する白石さんの姿は、やっぱりいつ見てもかっこよくて。オレはドキドキしながら、白石さんに質問する。 「白石さん、オレの誕生日知ってたんですか?」 「ああ、別に隠してたわけじゃねぇーんだけど……光がどーせなら、知らないフリしとけって。サプライズの方が、星も喜ぶからって言われてさ」 兄ちゃんが待ってると思っていたし、白石さんはオレの誕生日を知らないって思っていたから。さっきまで特別じゃなくてもいいなんて思っていた自分に、良かったねって言ってあげたくなってしまう。 「サプライズ、びっくりしました」 「星の名前の由来は光からくどいくらい聞かされてっから、星の誕生日は知ってたんだよ。だからお前の誕生日に上手いこと休み取れるように、先月はバイト続きだったワケ。なかなか会えなくて、悪かったな」 「そうだったんですね。オレ、テスト終わったら白石さんのバイト先まで行こうかなって思ってたから……なんかもう、本当に嬉しいです」 嬉しくて、つい頬が緩んでしまうオレの頭を、白石さんはぽんぽんと優しく撫でてくれて。誕生日の今日、大好きな白石さんにこうして会えただけで幸せだって思ったから。 恥ずかしいけど、伝えたい。 少しだけでも、構わない。 この想いが、白石さんに伝わるように。 「……白石さん、大好きです」 小さな声でそう言ったオレの手を、白石さんはそっと握ってくれていた。

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