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第282話

ランチ時間が終わって、お客さんが誰もいなくなった店内で、オレと白石さんは食事を済ませてのんびり会話を楽しんでいた。 「星ちゃん、お誕生日おめでとうっ!!」 仕事を終えたランさんが、綺麗な笑顔でオレに微笑んでくれる。白石さんはオレの隣で、優しく笑ってくれていた。 「あの、ありがとうございます。ランさんの料理、やっぱりとても美味しかったです」 「あら、嬉しいわ。星ちゃんに私からプレゼントがあるから、少しだけ目を瞑っててちょうだいね?」 ランさんはそう言うと、カウンターの奥に消えてしまう。オレはランさんに言われた通りに、目を瞑って待っていた。 「……星、もう開けていいぞ」 白石さんの声にゆっくりと目を開けると、オレの目の前にとっても素敵なデザートが置かれていて。オレはあまりの嬉しさに、興奮して目を輝かせる。 「すっごく可愛いっ!!」 1番上には星形のホワイトチョコレートと白いリボンが可愛くあしらわれていて、小さなシュークリームがいくつか積み重なり綺麗なタワー状になっている。 「これが、私からのプレゼント。星ちゃんのケーキはクロカンブッシュにしてやってって、雪夜からのリクエストで作ったの。ミニミニサイズだけど、味はちゃんとしてるわよ」 「クロカンブッシュ?」 「フランスだとウエディングケーキで使われる祝いのケーキな、お前シュークリーム好きだろ」 「うん、大好きっ!でもこんなに素敵なケーキだと、食べるの勿体無いですね」 「星ちゃんのために作ったんだから、遠慮せずに食べてみて?」 オレはランさんの言葉に頷いて、とりあえずスマホでケーキの写真を撮ってから、小さなシュークリームを一つ、パクッと頬張った。 「とっても美味しいっ!!」 バニラビーンズが入っているカスタードクリームは上品な味わいで、ほのかな甘さが口いっぱいに広がっていく。 「ランさん、白石さん、ありがとうございます……オレ、とっても幸せです」 こんなふうに祝ってもらえるなんて、全然思っていなかったから。なんだか嬉し過ぎて、鼻の奥がツーンとしてくる。溢れそうな涙を、白石さんはいち早く察してくれて。オレの頭を撫でながら、ふわりと優しく微笑んでくれた。 「せーい、幸せならちゃんと笑え。お前を泣かせたいワケじゃねぇーんだから」 「……白石さん」 「あらあら、イイ男が更にイイ男になったわね。雪夜が誰かの誕生日祝うのなんて、初めてだからドキドキしちゃったわ。雪夜は本当、星ちゃんにメロメロね」 「うるせぇー、オカマは黙っとけ」 「誰がクロカンブッシュ作ってあげたと思ってるのよっ!!私はパテシエじゃないんですからねっ?!」 「お前何でも作れんじゃねぇーか。私から星ちゃんにプレゼントするぅーって、喜んで引き受けたのどこの誰だよ」 「うるさいわねっ、私よっ!」 ランさんと白石さんの会話が、なんだかとても可笑しくて。素敵な時間を過ごせたことに、オレは自然と笑みが溢れていた。

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