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第285話

「白石さん、オレっ……」 もっと、欲しい。 そう口走ってしまいそうになった瞬間、白石さんの綺麗な人差し指がオレ唇にふわりと触れた。 「星……上、見てみろよ?」 白石さんにそう言われて、オレが上を見上げると。いくつもの小さな星たちがキラキラと輝いて、空を流れる川のようになっていた。 「うっわぁー、天の川っ!!白石さんっ、すっごい綺麗ですっ!!」 「季節によって映し出される星空はちげぇーけど、夏の上映はこの天の川がラストなんだ。終わる前によく見とけとよ、そのうち明るくなってきちまうから」 もっと欲しいって、そう思ったけれど。 白石さんが言った通り、ゆっくりと明るさを取り戻すホールに、オレの意識も現実へと引き戻される。 すっかり熱くなってしまった身体に、気付かないフリをして。オレは白石さんの車で、家の裏の公園まで送ってもらった。 帰り際のあと少しだけ許された時間の中で、オレが煙草を咥える白石さんを眺めていると、白石さんは何かを思い出したのか、煙草を口に咥えたまま後部座席から紙袋を取り出すとオレに手渡してくれる。 「ん、忘れるとこだった……ソレ、弘樹から。アイツ、星に渡してほしいって俺のバイト先までわざわざ来たんだよ。まだ少し時間かかるかもしれねぇーけど、弘樹のことは待っててやってな」 そう言われて渡された紙袋の中を見ると、お菓子の詰め合わせとペンケースが入っていた。 ……弘樹、ありがとう。 心の中でそう呟いたオレの頭を優しく撫でてくれる白石さん。味わうように煙草を吸い終えた白石さんは、ダッシュボードから小さな箱を取り出すと、オレの手のひらにひょいっと乗せてくれる。 「コレ、俺から星へのプレゼント」 「……開けても、いいですか?」 「どーぞ」 小さな白い箱を包むように結ばれているブルーのリボンを、オレはそっと解いていく。ゆっくりと箱を開けると、ペーパークッションに眠るようにして、小さな黒猫のチャームが付いた鍵が一つ入っていた。可愛らしい黒猫はどことなく、ステラに似ている気がする。 「あの、コレってもしかして……」 きっと、とても大切な鍵。 オレの考えが正しいのなら、こんなに嬉しいプレゼントは他にないと思った。特別な場所を開けるための、白石さんしか持たないはず道具。 「俺ん家の合鍵。プレゼントしてやっから、絶対無くすんじゃねぇーぞ。明日はテスト終わったら、その鍵使って俺ん家で待ってろ……あー、拒否権ッ?!」 オレはあまり嬉しさに、まだ話途中の白石さんに抱きついた。言われなくても、その先の言葉は分かっているから。 「とっても嬉しいっ!拒否権なんてなくていいです……白石さん、本当にありがとう……大好きですっ!」 突然抱きついたオレの行動に、白石さんは少しだけ驚いたみたいだったけれど。すぐにぎゅっと、オレを力強く抱きしめてくれる。 「星、16歳の誕生日おめでとう」 囁かれたお祝いの言葉。 オレの特別な日、特別なプレゼントをくれた白石さんに「ありがとう」と感謝の気持ちを詰め込んで。 白石さんの唇に、オレはそっとキスをした。

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