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第286話
白石さんに教えてもらった最寄駅から、歩いて10分。無事にテストを終えたオレは、緊張しながら白石さんの家の扉を鍵で開ける。
……あ、開いた。
揺れる黒猫のチャームを握り締めて、そっと鍵を抜き扉を開けて中に入る。やっぱり綺麗な白石さんの部屋、ふわりと漂うブルーベリーの甘い香り。
本当にオレ、一人で白石さんの家に来ちゃったんだ。
嬉しくて、恥ずかしくて。
オレは白石さんの部屋で一人、頬を染めていた。
白石さんが帰ってくるのは、15時過ぎ。
クーラーもテレビも好きなようにつけて寛いでていいよって、白石さんからLINEが届いていたけれど。オレはなぜかやたらと緊張してしまって、ベッドに転がっていたステラを思わずぎゅっと抱きしめた。
「ステラー、久しぶりだね。オレ、色々頑張ったんだよ」
弘樹のことも、テストも、今日ここまで来たことも。16歳になったって、あんまり実感はないけれど。昨日お祝いされたことを思い出して、オレはとても嬉しくなった。
白石さんと別れた後、家族にお祝いしてもらって。兄ちゃんはブービーバードのマークがついた、黒のリュックをプレゼントしてくれた。ユキちゃんとは楽しい時間を過ごせた?って、部屋に戻って勉強していたオレに、兄ちゃんはそう聞いてくれて。
ラスト金曜日の科目はちゃんと勉強しておくようにって、兄ちゃんが前に言っていたのは、白石さんとの時間を少しでも楽しめるようにって、そんな意味が込められていたことを知った。
テストが終わったら、ユキちゃんにたっぷり可愛がってもらっておいでって、兄ちゃんはオレにそう言っていたけれど。
「白石さん、早く帰って来ないかなぁ」
今日はどうしても受けなきゃいけない講義があるって言っていた白石さんは、今頃大学で勉強しているんだろう。
さすがに暑くなってきて、オレはネクタイを外しクーラーを入れた。テーブルの上に置かれたリモコンは、エアコンとテレビとどちらも綺麗に並んでいる。
白石さんって、本当にしっかり者。
オレもマメに掃除する方だけれど、ここに来るたび、白石さんの部屋の綺麗さに驚いてしまう。
白石さんは普段、どんなことをしてこの部屋で過ごしているんだろう。オレが一緒にいるときの白石さんって、料理をしているか、コーヒーを飲んでいるか、ぼーっと気怠そうに煙草を咥えている……そんなイメージしかない。
ベッドサイドに置いてある灰皿には、数本の吸殻と煙草の灰が残っていた。朝目覚めたときにでも吸っていたのかなって、そんなことを思っていると、カチャっと鍵の音が聞こえた気がして。
ゆっくりと、開けられた扉。
その向こうに見えた白石さんの姿に、オレの体温は上がっていく。抱きしめていたステラをソファーにそっと置いてあげて。
「ただいま、星」
オレは帰ってきた白石さんに、勢いよく抱きついた。
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